衛生特集:厨房施設改善への取組み提案

2000.07.17 208号 3面

<1>厨房施設の作業環境

(1)厨房作業場内の温湿度

欧州の厨房を見学するたびその環境の素晴らしさをうらやましく思うのは私だけであろうか。厨房機器の断熱性能に優れた機器が多いこともあり、夏季でも三〇度C以下で実に快適である。明るい厨房、ドライ、安全、清掃のしやすさ、何より従業員の態度が快活であり、わが国のような暗いイメージがない。

こうした職場環境の実現は、従業員自身のモラルの高さ、国民性、当局の厳しい指導、厨房メーカーの優れた技術、教育制度の充実、法的規制など長い歴史の中で消費者優先の倫理に基づく社会基盤が培われてきた結果と思われる。

わが国の衛生管理マニュアルで、厨房作業場内の温湿度を二五度C、八〇%以下に保持するように指導している点は評価できる。が、現実は換気不良のため夏季の室温が三五度C以上、湿度九〇%程度の事例もある。

行政当局の指導ではこうした社会基盤の整備は遅いことを認識し、企業自身、作業者自身が自ら積極的に改革を図るべきである。

(2)厨房面積と天井高

ドイツの快適な厨房環境はいくつかの優れた規定によって実現しているがその事例を紹介する(別表参照)。

(3)室内照度

ドイツの厨房の採光基準は目線の高さで自然光が差し込むことを義務づけている。また、照度は作業エリアごとに決められており、加熱エリアは五〇〇ルクスでかなり明るい。こうした照度は異物混入の防止など衛生上極めて重要である。

以前ある厨房で食事に注射針の破片が混入していた。そこの厨房は外光が差込み厨房全体たいへん明るいことも幸いして作業者が発見し大事に至らなかったが、このような事態はどこの厨房でも起こり得ることを教訓に、読者は厨房照度を再チェック願いたい。

(4)厨房機器の仕様

昭和53年以来の「厨房設備士必携」に厨房に関する基本的な改善課題が指摘されている。厨房環境、作業者の安全性、厨房機器の改善など。以来三〇年近く経過した現在でも基本的課題はそのままである。厨房機器についても業界としての規格や仕様がなく、まか不思議と言わざるを得ない。この点厨房工業界では近年ようやく規格化を目指した動向はあるようだがいまだ実現していない。

海外先進国の厨房機器は、規格基準が明確で実に分かりやすい。製品が基準に合っていなければ売れない。ドイツのDIN規格はヨーロッパで最も厳しいが、信頼性も高い規格であり、機器の安全性、性能、熱効率、衛生、材質など使用者優先の理念に基づき厳しく定められている。従って、厨房機器を選定する場合、まず機器の仕様を確認し、その上で価格評価をすべきである。仕様の確認なしで機器を選定することは絶対に避けるべきである。

一方既存の旧態依然とした厨房機器や老朽化した機器は、ほとんどが機器の周辺が清掃できずメンテナンスもできないようなすき間だらけのものが多い。こうした状況は当然害虫の「巣」となり、不衛生を助長する。こうした「言い訳」を与えるような厨房施設は早急な刷新が必要である。

<2>厨房設計と衛生対策

(1)設計思想と技術の確立

厨房内の衛生対策は、国際的基準であるGMP(一般衛生管理基準)を踏まえて設計することが重要である。わが国の厨房の衛生問題は、このGMPの要件がほとんど整備されていないことであり、換言すればGMPを整備すれば食品衛生対策の八〇~九〇%は改善されると推察される。

厨房の設計段階で衛生的危害を未然に防止する方法はある(ワークリレーション方式)。が、わが国ではこうした技術教育がなく、経験と勘に基づく設計手法があまりに多いのではないだろうか。経験と勘は否定しないが、作業者が代わると使いにくい場合が多く理論的ではない。

また、設計の意味は「How to operate」つまり、運営方式やコンセプトの確認、経済的条件、人的条件、調理方式、提供方式など、条件を明確にすることがもっとも重要である。作図することが設計ではない。三~四日で厨房図面の提示を要求する建築業者はこうした設計手順をまったく理解していない。従って、単にパズル式に空間を埋めるような「設計手法」は改める必要がある。

また、厨房の設計者は、単に厨房機器をレイアウトするのみでなく、室内の建築的条件(床・壁・天井の仕上げ、清掃方法、ドライ化、設備の維持管理方法、室内温度湿度条件、熱源の仕様条件など)を同時に提案することが設計者の義務である。

(2)厨房設備予算の適性

従来の厨房設備予算は、過去の勘や経験による設定が多く、オペレーションコストとのバランスを検討し、真に必要な器材を配備していない場合が多い。この点今回の取材を通してはなはだ疑問を感じる。予算の設定は、設計条件と併せて投資効果を検討すべきであるが、半値八掛けや、平方メートル単価×面積のような検討はあしき慣習であることを認識し改める必要がある。どこかにひずみが噴出することを肝に命ずるべきである。

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