新店ウォッチング:「(S)ガスト」赤坂店
常に新しい業態にチャレンジし続けるFR(ファミリーレストラン)界の最大手「すかいらーく」が、またしても画期的な新業態を立ち上げた。今年1月に、東京・赤坂に出店した同社の新業態「(S)ガスト」の一号店に臨店してみた。
(S)ガストとは、「セレクト」「スペシャル」「スモールサイズ」「サテライト」「サービス」など、同業態を特徴づけるコンセプトの頭文字「S」にちなんで名付けた都市型のFFS(ファストフード)タイプの新業態であり、同社のFR業態の中心となっている「ガスト」を基本に、店舗規模を縮小し、メニューを大幅に絞り込むことで、初期投資の大幅な圧縮とオペレーションコストの低減を図り、FRガストと同じレシピの商品を、さらに低価格で提供することを実現している。
メーン商品は、FRガストの二大売れ筋商品である「ハンバーグ」「とんかつ」に加えて、「カレー」「うどん」という四つの商品ラインで構成され、これらのバリエーションも含めて合計一〇アイテムという徹底的な絞り込みがなされている。
ほかには時間限定のモーニングメニューとして「納豆の朝定食」(三六〇円)、「焼鮭の朝定食」(三九〇円)などのセット商品やデザート、ビールなどがあるだけだ。
メーン商品の価格帯は、ハンバーグの単品が二九〇円という驚異の価格を実現しているのをはじめ、ご飯と味噌汁をセットにしたハンバーグ定食が三九〇円、とんかつ定食四九〇円、ビーフカレー四七〇円、エビ天とかき揚げの載った天ぷらうどんが三九〇円という具合に、どれも繁華街でコンビニや弁当店との競合に十分太刀打ちできる「ワンコイン」の価格帯に納まっている。
さらに、昼食時には店頭で弁当(五〇〇円~六〇〇円)やドリンク(弁当と一緒のみで八〇円)を販売することで、店舗規模以上の売上げベースを確保できる効率的な店舗である。
店内は、入口を入るとすぐに、立ち食いそば屋などで使用されているものと同じタイプの食券販売機がある。ここで、イートインか持ち帰りかを選んだ上で食券を購入、商品の配膳は従業員がサービスしてくれるが、下げ膳は客が自分で行うという「セミセルフ」スタイルのサービス形態だ。
客席は、カウンター席と二人掛けを中心にしたテーブル席。全体的には、ナチュラルカラーの木材を生かした内装だが、要所に使われているステンレスが、店の雰囲気を、モダンであか抜けた都市型のダイナー風に見せている。通常の店舗設計では避けることが多いカウンター席とテーブル席の高さの違いも、さほど気にならない。
奥に細長い店舗の形態で、客動線と従業員動線が交差する中央部にデシャップカウンタがあるため、混雑時には若干交通整理が必要になるが、この業態は入居する物件ごとに店舗のレイアウトを合わせていくスタイルになるために、二号店以降でも同じ問題が発生するわけではないだろう。
客単価五〇〇円前後で一日の平均客数を五五〇人程度確保できれば、既存のFRガスト店と同水準の年商一億円規模の業績が見込めると想定されているとのことで、同社では、この ガストの二号店を、すでに神奈川県の東急東横線武蔵小杉駅前に出店し、さらに都心部や商業施設、大学や駅構内などを中心に展開を行っていく計画であるという。
◆取材者の視点
このコーナーで取り上げた回数が最も多いのは恐らく「すかいらーく」社だろう。常に新業態を立ち上げ、それが業界の話題をさらい、影響力は大きい。同社のサイトを見れば、新業態を立ち上げて実験を行っている様子がうかがえる。
そうした実験の中から、あのバーミヤンが生まれた。アイテムが絞り込まれているとはいえ、あの完成度の高い料理をあの価格帯で提供できる競合他社は、いまだにない。チェーンとしての商品づくりで同社の技術力はわが国最高峰とも言えるのではないか。
今後の重要な課題は従業員のモチベーション管理だろう。目指す方向においては、各店の従業員は限りなく単純労働作業員に近づく。筆者は、昨年からの急速な「カフェ」ブームを、チェーンの「紋切り型」店づくりに対する顧客の反動と見ているが、外食が「楽しみ」であり続けるためには、「CS(顧客満足)」の前に「ES(従業員満足)」の視点が抜け落ちていてはいけないはずだ。
「接客サービスはコストアップか」という議論の中で、多くの主張が見逃しているのは、外食界のガリバーにしてチェーンオペレーションと効率化の権化であるマクドナルドが、決して接客サービスをおろそかにして来たわけではないという事実である。
猛烈なサテライト出店で、「金の成る木」ブランドの最後の刈り入れ時期に入った現在はともかく、当初は「マニュアル型スマイル」と揶揄されながらも、「マニュアル通りでも、不愛想よりは良い」と言われるまでになったその接客オペレーションは、一貫して「接客」を価値のあるサービスとして提供してきた。
すかいらーく社が、わが国独自の接客オペレーションの仕組みを構築した時、それに勝てる企業はどれだけ存在するだろうか。
◆「(S)ガスト」赤坂店((株)すかいらーく)開業=二〇〇一年1月25日、店舗面積=三五坪、客席数=三七席、営業時間=午前7時~翌午前5時
◆筆者紹介◆ 商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画、運営を手がけ、SCの企画業務などを経て商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援などを幅広く手がける。