この1品が客を呼ぶ:「竹の里 てんてん亭」てんてん鍋
新鮮な旬の素材を竹串に刺し、卓上の鍋で揚げて食す「盆天天ぷら」。別名「てんてん鍋」ともいうこの料理は、昭和57年のオープン当初から「竹の里 てんてん亭」の顔ともいえるメニューだ。さまざまな素材を客が自ら揚げる楽しさもあってか、界隈のサラリーマンやOLを中心に絶大な人気を誇っている。
店名に「竹の里」と冠していることからもわかるように、てんてん亭はまさに竹づくし。店内には風雅な竹林を配し、器や串にも極力竹を使用するなどの工夫が凝らされている。また、地上三〇階からの眺望は、季節の移ろいが楽しめる明治神宮の森をはじめ、彼方には横浜ベイブリッジが見渡せるなど、西新宿の高層ビル街にいることを忘れてしまいそうな開放感たっぷりのロケーションだ。
そんなてんてん亭の看板メニューは「てんてん鍋」(一五〇〇円)。鍋と聞くと寄せ鍋やちゃんこ鍋などの鍋料理を連想しがちだが、ここでは竹串に刺した串揚げ料理のことを指す。最近では誤解を招かないよう「てんてん揚げ」とも称しているという。
てんてん鍋の素材は季節によって多少変わるが、エビ、牛肉、椎茸、鶏のささみ、ちくわ、アスパラなど、五種類の魚介類や肉、野菜などを竹串に刺して揚げる、和風の串揚げ。この日は「海老のしそ巻き」「椎茸の海老しんじょう詰」「鶏のささみアーモンド揚げ」「牛肉のチーズ巻き」「ちくわの鴨挽き」の五種類。
「テーブルに設置された鍋を使って、お客さまご自身で揚げていただくのがスタイルなんです。最初は戸惑いながらも、皆さん楽しんで調理されています。会話も弾んでいらっしゃるようですね」とは調理長を務める清水繁光さん。串揚げそのものの味覚に加え、こうしたプラスアルファの楽しみが味わえるのが、てんてん鍋の人気の一因といえよう。
「てんてん鍋はもちろん単品でも用意しておりますが、コースで注文されるお客さまが多いですね」
てんてん鍋が味わえるコースは笹コース(四五〇〇円)で、胡麻豆腐、鰯うす造り、串焼き、季節の煮物、天竹蒸し(茶わん蒸し)、竹葉揚げ(さつま揚げ)、てんてん鍋、五色サラダ、鰯のたたき鍋、雑炊、新香、甘味、と盛りだくさん。
てんてん鍋に使う衣はパン粉だけでなく、フラワーアーモンドやこぶしと呼ばれる鰹節の粉など、素材によって使い分けているという。
それをケチャップや中濃ソース、天つゆ、さらに秘伝の調味料などを混ぜた「割りソース」と、「自家製タルタルソース」、そしてごま、青海苔、山椒などを加えた「五味塩」の三種類のたれを好みで使う。
またてんてん亭では「鰯のたたき鍋」(一五〇〇円)にもこだわりをもっているという。イワシつみれに長ネギ、大根、ニンジン、椎茸、もちなどが入ったあっさり味の鍋だ。
「まず最初につみれだけを入れてお召し上がりいただきます。そのつみれから出ただしに野菜やご飯を加えて雑炊にします。イワシはご年配の方にはもちろん、最近は若い方にも人気がありますので、あらゆる世代の方に好評をいただいている鍋です」
てんてん鍋は夜だけのメニューになるが、午後2時までのランチタイムには「帆立セイロ御膳」「かにセイロ御膳」「穴子セイロ御膳」「親子セイロ御膳」「ウニセイロ御膳」(一三〇〇円~)など、海の幸のせいろを中心としたメニューを用意。近隣のOLを中心ににぎわいを見せる。
格好のロケーションのなかで、てんてん鍋をはじめ、竹づくしの家庭的な料理がじっくりと味わえる店だ。
◆「竹の里 てんてん亭」=東京都新宿区西新宿二‐四‐一、新宿NSビル三〇階、03・3344・4600/坪数・席数=一五〇坪・六〇席/営業時間=午前11時~午後4時、5時~10時(土・日・祝日午前11時~午後10時)
○記者席からのコメント
「てんてん鍋」と呼ばれる串揚げは、調理長の技が冴える逸品ぞろい。ひと口サイズに上品に調理された素材が、さまざまな衣に包まれる様は、食欲をそそるのに十分だ。さらに自分で揚げて、その揚げたてを食べられるとあっては、おいしさも倍増である。自ら揚げるという作業は、最初はやはりちゅうちょしてしまうが、スタッフが丁寧に説明をしてくれ、さらに近くで待機していてくれるので、心配無用だ。衣の違いや三種類のたれを味わいながら食べると、五串では物足りない気がしてくるのも必然である。
○こだわりの食材
「てんてん亭」では器をはじめ、松葉串、かんざし串など、二〇種以上の器や串に竹を使用する。メニューの一つである「てん竹蒸し」は、竹筒に入った茶わん蒸しだが、竹はすべて同じ状態ではないため、器によって蒸し時間を調節する。使用する竹は九州と千葉から取り寄せているが、最近では入手が困難になってきたとか。だが、店の顔でもある竹の仕入れには妥協を許さない清水さん。良い竹があると聞けば、自ら足を運んで吟味することもしばしばだ。「竹あってのこの店ですからね」と胸を張る清水さん。