シリーズ・繁盛店の厨房(13) 和食厨房の人体動作

1993.04.05 25号 10面

日本料理とフランス料理、それに中華料理は世界の三大料理としてよく知られる。また、和・洋・中という順序で呼ばれているので、これにならって、和食厨房の基本的人体動作について考えてみよう。

わが国は、春夏秋冬の四季折々の山海の食物に恵まれているので、日本人特有の器用さと相まって、包丁一本で新鮮な素材を生かした調理が、世界に誇れる伝統的な日本料理となっている。

腕前を唯一の誇りとする調理人は、厳しい徒弟制度の中で遂次、洗方・立回り・焼方・煮方・板前と段階的に上り、煮方一〇年のたとえのあるように、下洗いから下積み修業を一〇年もの歳月をかけないと一人前と認められなかった。

昔、板前は向板ともいって、板場(厨房)中の一番よい位置に陣取り目を光らしていた。現在でも冷蔵庫を背面として、厨房全体を見渡すことのできる位置が上座であり、船型流し台の場所で、ここに立つのが板前である。ここから厨房全体を指揮監督する。

この基本的和食厨房の構成は、今でも料亭や割烹店にみることができ、最初この板前の場所を厨房のどこのコーナーに決めるかが、厨房レイアウトの最大のポイントとなっている。

《板前に脇板》 板前の立つ船型流し台は、1・5~1・8mぐらいの両前立ち式と片前立ち式とがある。両前立ち式の場合は、双方の中間の位置に二段棚を設け、小物などの揚げ台とするが、ここに刺身包丁を置いたとき向こうの相手方に刃先が出ないような寸法が適当である。また下台は単なる物入れか冷蔵庫とするのが一般的である。

まな板は包丁ざわりの良い柳・ほう、少し堅いが檜などということになっているが、プラスチック製が水分を吸収しなくて衛生的である。

このまな板の高さは、構えた姿で胸の下ぐらいが使いよいとされている。そのとき包丁の束みが当たらないように船型流し台のふちが少し切り込まれている。

昔、板前は向板ともいって、台の上に座って包丁を持ち、前と横を背の低い格子で囲った中にまな板があり、横に水桶を置いて柄杓で水を汲んで使った。その脇に居て魚を運んだり、きざんだ刺身を盛台に移す仕事を脇板と呼び、板前の代理で包丁も使った。

ところで、あまり力を要しない刺身は包丁を引いて切るが、鱧の骨切りなど少々力を入れる包丁使いは左脚に重心かけて向うに押して切る。

船型流し台は、まな板流し、または京流しとも呼ばれ、関西の板場さんは高歯下駄を履いて包丁を使った。これは包丁を使う高さを下駄羽によって自分の使い良い位置に調整するためと、自分を一段と大きく見せ、輩下を威嚇統制するためでもあったといわれる。 厨房コンサルタント

島田 稔

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