今年注目の店:首都圏にキャッシュ&キャリーが続々出店 高桑隆氏
外食企業の動向で注目すべきは、「業務用食材卸」の大変革である。
年末、千葉市にドイツのキャッシュ&キャリー「メトロ」がオープンし話題となっているが、それ以前に国内でも飲食店向け業務用卸で大変化が起こっている。
特に業務用酒販店である。都内では「カクヤス本店」(売上高三〇八億円、売上高伸び率二六%増、営業利益約四億円、三八%増)と快進撃を続けており、首都圏の飲食店約七〇〇〇店を取引先とし、全国トップの業務用酒販店として驚異的な成長を遂げている。
筆者も昨年、同社のセミナーを担当したが、若い佐藤社長の頭は柔軟で、「この会社はさらに伸びる」と確信。市場全体が冷え込み、旧来の中小業務用酒販店は大苦戦。これから一気に、業界の地殻変動が発生しそうだ。業務用酒販店だけではない。業務用食材卸も大変化を予兆させる大きな動きがある。
二年ほど前から、肉の「ハナマサ」(本社=東京都)がプロスペック・ディスカウント・ホールセール(業務用食材格安卸売り業)として、都内に三〇〇坪クラスの大型店を続々出店しているのである。肉、野菜、冷凍食品、ワインなど、ハナマサが独自に世界のマーケットから輸入した食材、自社開発の製品を、中小飲食店向け食材仕入れスーパーとして急激な店舗展開中である。その豊富な品ぞろえに驚かされる。
ホームページは「国内の外食産業の七割は中小飲食業が占めているといわれている中、ハナマサの業務用スーパーはそうした中小飲食業が経営を安定させるためのサービスを提供したいと考えました。大手と競合関係にある中小飲食業が戦うための武器(食材)を調達する店づくりをめざしたのです」。
一方、関西系・九州系の業務用スーパーも関東に続々出店中である。その代表が、(株)トーホー(本社=神戸・年商一四〇〇億円・東証一部上場)だ。既に首都圏郊外に「Aプライス」という業務用スーパーを二〇店舗近く出店している。西日本を中心に七〇店を超えるAプライスを展開中。これらはキャッシュ&キャリーと呼ばれる現金持ち帰り方式だが、一般の掛売りの業務用食材問屋よりも二~三割は安い。いずれにしても、価格破壊、デフレの波は容赦なくこの業界へも押し寄せており、不景気を背景に大変化が忍び寄っている。
◆高桑隆(たかくわ・たかし) (有)日本フードサービスブレイン代表。ファミレス店長、専門学校研究所、大手コンサル会社を経て独立。現在法政大学で、「店舗独立開業講座」を開講する独立開業コンサルタント。専門分野は飲食店経営指導、独立開業指導、店長指導、立地診断。