古くから日本と交流の深いオランダであるが、料理といえば“？”となる人がほとんど。オランダ家庭料理「アウデ・カース」は、日本で知られていないオランダの味を紹介している店。在日オランダ人も太鼓判を押すこの店の人気メニューは、オランダ版パンケーキ「パンネンクーケン」。大阪人にも好評の、その魅力とは？

アウデ・カースのこだわりは、オランダの味を忠実に表現すること。各国料理を、日本人の舌に合わせてアレンジする店が多い中、異色の存在といえるだろう。

来店するオランダ人が「おばあちゃんの味だ」と感心するというが、オーナーシェフの富岡喜久夫さんは、れっきとした日本人。二〇代でオランダ・ロッテルダムに渡り、鉄板焼の店で調理師として一三年間働く。その間、さまざまな店を食べ歩き、友人のオランダ人家庭でも料理を習った。そして、「日本で、パンネンクーケンの店をやりたい」と思うようになったという。

帰国後、九六年に故郷の京都で開店、二〇〇〇年に大阪に移転しても、オランダ人をはじめ日本人客も多く訪れる。店では、伝統的なオランダ料理を提供しているが、パンネンクーケン（七〇〇円～）は、ほとんどの客がオーダーするという人気メニューだ。

表面をこんがりと焼いた、直径三〇センチメートルほどもある生地は、クレープよりも厚みがあり、モチモチとした食感が特徴。ベーコンやゴーダチーズ、リンゴやバナナなど、のせるものの組み合わせで、副食にもデザートにもなる。案外ボリュームがあるため、何人かで分けながら楽しむ客が多いという。

作り方は、いたってシンプル。生地は、粉に卵、牛乳、塩を混ぜ合わせたもの。ベーコンとゴーダチーズをのせる場合は、まず、フライパンでベーコンを焼き、生地を流し入れ、焼き色がついたらひっくり返して、チーズをのせればＯＫ。厚みがないので、五分もあれば出来上がる。

粉は、オランダ製のものを参考に、より近い商品を日本の製粉会社に依頼。小麦粉や上新粉などがブレンドされているという。また、この大きなパンケーキを焼くために必要なのが、直径三二センチメートルのビッグなフライパン。富岡さんは、日本で探し回ったが見つからず、オランダから送ってもらっている。

現在、パンネンクーケンは、計六一種類。プラス三〇〇円で生野菜のせもできるなど、味わいは幅広い。今後は、シチューをのせるなど、より副食に近いものも考えているという。

富岡さんは現在、オランダパンケーキレストラン協会への加入を申請中。「メニュー数の半分以上がパンケーキメニューであること」など、細かい条件をクリアした店のみが加入を許され、協会発行の冊子やインターネットでも紹介されるとか。アウデ・カースが入れば、オランダ国外初の加入店となるという。

店では、スタンポット（一五〇〇円）などの代表的な家庭料理も人気だ。マッシュポテトに野菜などの具を混ぜ込み、ソーセージや豚肉などを添えるのが一般的だが、パンケーキ同様、混ぜる具はさまざま。取材日のメニューでは、具はザワークラフト。富岡さんのオリジナルかと思いきや、ちゃんとオランダ料理のレシピに基づいているという。

塩やコショウなど、シンプルな味付けが基本というオランダ料理。質素で素朴な雰囲気は、昔の日本の家庭料理にも似た懐かしさを感じさせてくれるようだ。

◆「アウデ・カース」=大阪市北区西天満二‐五‐二、西天満ビル地下一階、電話０６・６３６１・３２９２／坪数席数=二三坪三四席／営業時間=午前１１時３０分～午後２時、５時３０分～１０時。土曜日は夜のみ営業、日曜・祝日休み

◆記者席からのコメント

パンケーキにこれほどまでに種類があるとは。メニューは、現地のカフェやレストランを巡り、原書の料理本などを参考に作られたもの。シェフのオリジナルではないというから、オランダ人はよほど好きなのであろう。そして、日本人も粉ものが大好き。パンネンクーケンが人気というのもうなずける。

日本人向けにアレンジしないというスタンスも、かえってすがすがしさを感じる。店名の「アウデ・カース」とは「熟成されたチーズ」という意味。店名のように、あわてずじっくり、食の懐の深さを楽しませてほしい。

◆こだわりの食材　シロップ

通常、パンネンクーケンは、何もかけずに食べるという。しかし、好みでシロップをかけたいという人には、この店では「ＳＴＲＯＯＰ」（ＣＭＳ　ＳＵＩＫＥＲ　ＢＶ製）というシロップを添えている。

ブラウンシュガーから作られており、味わいにコクがあり、粘り気も強い。日本では販売されていないので、オランダから取り寄せているという。

試しに、ベーコンのパンネンクーケンにかけてみると、甘みとベーコンの塩味が絶妙にマッチした。シロップをかけることで、また違うおいしさが発見できる。