名古屋版・料理人登場:会席料理「小久保」オーナーシェフ・小久保公正さん
「家庭画報」や「婦人画報」などから取材申し込みが相次ぎ、もっか名古屋一の有名料亭「小久保」。地下鉄覚王山駅から歩いてすぐ、大通りから入った緑の多い住宅街にひそやかにたたずむ。取材に伺ったのがお昼時、ちょうど食事を終えた三〇代の女性グループが出てきた。「おいしかった、また来たいね」。ガヤガヤと満足そうに帰っていったのが印象に残る。
三〇歳から四〇歳代の若いオーナーシェフが、和食、洋食、中華を問わず料理界にひとつの新しいうねりを創出しているが、ご多分にもれずここのオーナーシェフ、小久保さんも四〇歳。数々の老舗料亭で修業を積み、五年目にこの店をオープンさせた。「お客様に感動していただくことが一番。どこにもない、予想できない料理を味わってほしい」
さまざまな店を食べ歩き、料理やサービス、店づくりなどを足繁くまわる勉強家だ。取材中もイタリアンレストランから京都の有名料亭までいろいろな店名がポンポン飛び出す。時に感動的な料理に出合うこともあるが、決してまねはしたくないときっぱり。常に新しい食材とのマッチングやアイデアを求めているが、かといって、和の基本はしっかりと守りたいと思っている。
「和食が中華と決定的に異なるのは『仕込み料理』ということ。たとえば和食は、素材を一晩寝かせてだしで味付けし火にかけ、さましてから砂糖を加えるという時間をかけたうまさなんです。お造りにしても、しめてから八時間おくのが一番おいしいですからね。その点中華は炒めるなど、いわば瞬時のうまさです」
だからこそ、和食の流儀をこわさずに洋食と中華のイメージだけを小久保流にアレンジするのである。最近だと、イタリアンがよく使う赤、青、黄色の彩りを取り入れているとか。
「創作料理ばやりだけど、基本があってこそで、小手先の新しい料理はすぐ飽きられます」
料理は人間性。料理を見ればそれをつくった人間の腕、感性、生き方すべてがわかる。だからこそ料理人は常に自分を磨き続けなければならない‐‐これが小久保さんの持論だ。
「若い時は、いい映画を見たりいい絵を見たりいい器を見て目を養うことが必要です。まじめすぎるのはだめ。遊び心も大切かな」
小久保さん自身もある時期、小遣いすべてを器に費やした時があったという。こうして、物の価値を見抜く感性を身につけてきた。
昼会席は五〇〇〇円と一万円を、夕会席は一万円、一万五〇〇〇円、二万円を設けている。不況の影響で接待などが減少し、料亭が打撃を受けているが、やはり苦戦は続いている。
「でもこの仕事をする最大の目的は私利私欲というのとは少し違うかな」
最初はうまくいっていても、利益重視に走り最後に下り坂になる店を見てきての自分への戒めである。朝6時から午前0時まで働きづめだが、お金ではない多くの喜びがある。「料理やサービスについて、辛口の意見を言ってくれるお客様に育てられました」
ストレスを抱える人が多い時代、「おいしい料理を食べて幸福感にひたれるひとときを過ごしていただきたい」。これからもひたむきに小久保の料理を極めてゆく。
◆会席「小久保」(名古屋市千種区城山町2-1-2、電話052・764・5410)営業時間=午前11時30分~午後2時、6時~10時、定休日=毎週水曜日