めざすは一流MISS料理人:三笠会館本店 パティシエ・広瀬智子さん
東京・銀座の三笠会館本店一階ティールームのショーケースには、品のよい華やかさと、やさしい甘さのあるおいしいケーキが並ぶ。
ケーキの企画から仕上げまでを担当しているのは一九七六年生まれの広瀬智子さん。
仕事について六年目。製菓部のキーパーソンとして後輩の指導をしながら週三日は足立区にある工場で仕込みをし、二日は店でケーキの仕上げをする。
「店に出るとお客さまの反応がじかに伝わってくるので、すごく楽しいですね」
その話しぶりからは仕事に対する熱意と愛情が伝わってくる。
新しいケーキ作りのアイデアが浮かぶのは朝の通勤時、駅まで自転車に乗っているときが一番多いという。
「一〇分ほどのあいだにフルーツの組み合わせをああしてみたらおいしそうだ、なんて思いつくんです」
アイデアが浮かんだ日には、試作品を作りチーフに見てもらう。そのまま商品化された例も数知れない。
そうした発想ができるのも日ごろの努力があるからこそ。休みの日に話題の店を食べ歩くのはもちろん、平日昼休みにもデパートのケーキ売り場をチェックする。日本洋菓子協会の講習会にも積極的に参加している。就職と同時に集めはじめたケーキ関連記事の切りぬきも今では膨大な量だ。
広瀬さんの最近の自信作は「秋色の林檎のミルフィーユ」(コーヒーまたは紅茶付一一〇〇円)。サクサクとしたパイ生地にかけたナッツ入りのキャラメルカスタードとリンゴのソテーのバランスのとれた上品な味が人気で、毎日完売する。
「ケーキ作りには季節の味を大切にしています。秋の『和栗のモンブラン』や暮れの『クリスマスケーキ』など、毎年楽しみにしていてくださるお客さまも多いんですよ」
今年のクリスマスケーキ(マルジョレーヌ一万円、ほか)にもすでに多数の予約が入っている。12月にはそのひとつひとつを丁寧に仕上げる大変な作業が待っている。
「今の仕事が精いっぱいで、将来のことを考えている余裕はありません」
毎日全力疾走中の広瀬さん。彼女の可能性は無限に広がっているようだ。
◆「(株)三笠会館本店ティールーム&ケーキショップ」(東京都中央区銀座五‐五‐一七、電話03・3571・8181)
◆プロフィル
ひろせ・ともこ=1976年東京都葛飾区出身。両親と姉がいる。子供のころからお菓子づくりが好きだった。中学校3年生のとき、誕生日にもらったクッキーの本を読んでこの道に入ると決めた。性格は負けず嫌い。高校卒業時の進路指導で担任に「調理師学校に進みたい」と相談したところ「進学したくないのだろう」と言われたのに「カチンときて」東京家政短期大学栄養科に進学、栄養士の資格取得。卒業後、武蔵野調理師学校で再度学び現職に就く。
◆料理人を目指す女性の後輩へ
お菓子づくりの仕事をしたい人がいたら「いっしょにやろうよ」と言いたいですね。何も恐れることはありません。たとえ失敗しても勉強だと思えば楽しいものです。怒られても、いつか見返すんだと思えばいいのです。失敗することを考えずに、まず始めましょう。
◆上司からひと言 製菓部顧問・神成勇夫さん
彼女は明るく元気な女性です。そのうえだれよりも挑戦意欲が強い。私は顧問として社員に他店のリサーチや、勉強会の出席をお願いしています。彼女はそのどれにおいても熱心で、いつも私の期待以上の成果を見せてくれます。これからが楽しみな人材ですね。
◆いちおし食材 グランマルニエコルドンルージュ
当店のショートケーキには幅広い年齢層のファンがいらっしゃいます。スポンジの甘さと甘さを抑えた生クリーム、新鮮なイチゴのすっぱさが絶妙で、「甘いものが苦手」という人でも一度食べたら、また食べたくなるといわれます。
その秘密のひとつはスポンジに使っているリキュール「グランマルニエ コルドンルージュ」。コニャックとハイチのビターオレンジの豊かな香りが、ケーキに上品な風味を与えてくれます。
◆問い合わせ=サントリー(株)(東京都港区、電話0120・139・310)