株式会社が農業に進出 ワタミフードサービス子会社、特区で有機野菜を栽培
外食チェーンのワタミフードサービス(株)(東京都大田区、電話03・5737・2784)が設立したワタミファームは特区でも農業を展開。有機野菜をワタミの店舗だけでなく、他の外食チェーンや小売業にも販売する。行政からの土地リースで農業を行う。農水省はリースを使う方式で、株式会社の農業への参入をさらに加速させる考えだ。
ワタミファームは北海道で六五ヘクタール、群馬県九・七ヘクタール、千葉県で五ヘクタールの農場を持つ。北海道での牧草地四〇ヘクタールを差し引いても大規模だ。農薬や化学肥料を使わない有機栽培で、大根など一般的な野菜や外食で多く使われるスティックセニョールなど特殊な野菜も栽培する。
同社は株式会社、農事生産法人として双方の顔を持つ。原則的には、特区のある千葉県と北海道では株式会社として活動し、特区制度のない群馬県では有限会社の農事生産法人として動く。
〇二年、同社は千葉県山武郡で有限会社として誕生。農事生産法人としても活動していたが、特区制度が動き始めた昨年に組織を変更し、株式会社としても活動を始めた。
農事生産法人は、農作物の栽培・販売だけで売上げの過半を占めなければならず、株式会社も生産法人になれるが、株の譲渡で制約があり、通常の企業では参入しづらい。特区ならば通常の株式会社でも県や市町村経由で土地を借り受けできる。ただ、特区では有機栽培、ワイン向けなど特徴のある農業が中心だ。
ワタミグループ自体は、有機の食材を使うなど原材料に強くこだわるが、農業への進出はその一環。有限会社のままでも農地を使えるが、あえて特区にこだわったのは「株式会社として実績をあげて日本農業に風穴をあけたかった」(長井一秀ワタミファーム常務取締役)ためという。特区制度も当初は地域の行政が理解を示さなかったが、何度も交渉したことや、特区がブームになってきたことで了解を得られ始めた。
農業を始めたころは、農場近辺で「和民」という店舗名は知られていても、企業名の知名度が高くなく、「何をする会社か」といぶかられたという。信頼を得るために、スタッフは近辺の農家よりも朝早くから作業を始め、夜遅くまで働くという。今でも続ける。
特区での農業参入ということで地域での知名度も上がり、行政を介して紹介が来ているという。特区の申請・認可などが長時間かかることもあるため、千葉県内では農事生産法人としても業務を続ける。将来的には国内の有機野菜の一〇%程度を生産したいと夢は大きい。
農水省は、5月24日に公表した農政改革の基本構想の一つとして、株式会社の農業への参入を「特区での実績をみながら」という条件つきながら認める考えを示している。市場の動きを把握している企業参入のメリットを認めた。JA全農の関係者は「利益にならないからすぐ撤退というのが困る」という。特区制度に参入した企業の責任は重い。