パスタ特集:成長性高いパスタ市場 プラスのメニューで新業態も
イタリアンの市場は需要が伸び続けており、まだ拡大の余地がある。中でもパスタ、ピザは根強い人気があり、パスタメニューの成長性は高い。一般のファミリーレストランもパスタ系に特化していく傾向があり、今後は日常レベルで開発されるべき業態が出てくるだろう。ジョリーパスタのようにすでに特化した専門店でも、さらに進化したタイプが現れるはずだ。パスタメニューの動向と今後の可能性を追った。(阿多笑子)
依然好調なパスタ市場であるが、当然競合も激しくなり、「パスタをやっていれば安心」とあなどっていると、負け組みに転落する。とくにメニューでは売れ筋が定番化し、どの店も代わり映えしない横並びの品揃えが問題だ。
全体でパスタのレベルが上がったことで、品質的にも当たり外れがなくなったことから、顧客は気に入った店があっても、新しい店ができればそこに流れる。顧客の流動化を防ぐためには、ほかにはないパスタメニューを真剣に追求し、「オンリーワン」の店になることだ。
業態別では、イタリアン市場は核となる業態の上下にまだまだ隙間がある。客単価ごとにさらに業態は分化していくだろう。レストランでは二~三万円のハイクラスと、三〇〇〇円の大衆クラスの中間で、充実した元気の良い業態がない。低価格でも、客単価七〇〇円台というサイゼリヤの下をいく五〇〇円台のクラスがなく、今後ファスト・カジュアルの業態でここが狙い目になる。
また、パスタは石窯のピザブームとともに相乗効果でマーケットを膨らませてきた経緯がある。今後はパスタを核に、「パスタ・プラス」のメニュー展開で、サラダやアンティパスト、デザートなどを強化した新しい業態も考えられるだろう。
◆パスタ専門店
パスタ専門店は、今後さらにカジュアル化し、下の価格帯としてファスト・カジュアルの業態が出てくるだろう。市場圏としてはダウンタウン型でしか成功しないが、ファスト・フードに近いサービスで、専門店より提供時間が早く、価格も安い、なおかつ品質的にもしっかりしたパスタの市場性は大きい。
とくにファスト・カジュアルとして注目されるのは「生パスタ」だ。これまでも生パスタを扱う店はあったが、まだお客の嗜好として市場が成熟していなかった。提供する側も、スパゲティの品揃えのひとつとして生パスタがあるというような中途半端なもので、メニュー自体も顧客のニーズに合うものではなく、結果的に「乾麺よりおいしい」と評価につながらなかったという要因がある。
米国では、ショッピングセンターを中心に、オープンキッチンで生パスタを製造、販売するとともに、その場でゆで上げてソースとともに提供するイートインスタイルの専門チェーンが人気だ。
日本ではまだ類似店はなく、今後このスタイルが注目されてはやることは間違いない。ファスト・カジュアルに限らず、売り方、プレゼンテーションの仕方で差別化でき、このスタイルは上から下まで幅広い価格帯で業態開発の可能性があるだろう。
また、専門店の売り方として、顧客のあれこれ食べたいというニーズに応えた「ハーフ&ハーフ」などの提供の仕方で顧客をとらえることができる。それくらいの手間をかけないと、ポピュラーなメニューだけでは生き残れない。
メニューの差別化では、イタリアへの旅行客が増えたこと、パスタ市場が成熟してきたことで、顧客の舌も肥え、より本場に近い本物を食べたいという志向が強くなっている。
和風パスタのような和製のニセモノは陳腐化している。イタリアの地方料理とパスタを組み合わせるなど、本場感をより演出していくことがカギとなるだろう。
◆喫茶・カフェ
喫茶・カフェでは、近年増えた現代風のカフェは、限りなくリストランテやトラットに近い。一方喫茶については、いまの素人レベルで作るスパゲティの品質を向上させないと、競合店に顧客を奪われるだろう。
すでにスパゲティは喫茶のランチメニューでは欠かせないアイテムになっており、そこそこは売れている。しかし最近は低価格カフェ・チェーンでも価格が安く品質の良いパスタを出すようになり、品質としては勝負にならなくなっている。喫茶店では差別化としてもう一度手作り感を見直す必要があるだろう。
たとえば、市販のソースではなく自家製のソースを作って一部でも手間をかけること、スパゲティもゆでおきをやめて調理の工夫をするなど、良いものをある程度の価格で提供すれば顧客も満足する。
また、専門店ではやらないようなユニークなパスタメニューを開発するのも手だ。専門店で陳腐化している和風パスタやナポリタンも、懐古的な需要がないわけではなく、割り切ってオリジナルメニューとして出せば勝算は十分ある。
食事として充実感を出すことも、喫茶ならではの工夫が生きるだろう。最近は女性も昼食にしっかり食べたいという声が多く、男性も専門店のパスタでは量が足りない。具材や麺のボリュームをしっかり出すことで、リピーター率も高くなる。またセットメニューのアンティパストやサラダを充実させれば女性にも好評だ。
喫茶は顧客の生活圏にあるという位置づけから、専門店とは一線を画し、実質的な日常に徹することが、最大の付加価値となるだろう。顧客もそれを求めている。
◆イタリア料理店
イタリア料理店は、リストランテの客単価一万円以上の市場は安定している。一方、三〇〇〇~四〇〇〇円のいま主流のボリュームゾーンがこれから上下に分化していくだろう。
このゾーンはイタリアンブームを牽引してきたが、三〇〇〇円台では、品質的に限界があり、慣れた層がよりワンランク上の本当の満足感を求めている。比較的リーズナブルで内容が充実した五〇〇〇円台のリストランテがこれから出てくるだろう。
他方、もっと気軽に一週間に一回イタリアンが食べたいという層には、三〇〇〇円台のボリュームゾーンから無駄なものを省き、より日常レベルに使える二〇〇〇円台のイタリアンが求められている。
コンセプトとして今後のねらい目は「南イタリア」。スローフードの原点として注目されている。地域ではシチリアやサルデーニャ、ナポリなど、南部の魚介や魚をふんだんに使ったお袋の味的な料理、ママンのパスタなどに人気が出るだろう。
これまではしゃれたリストランテが主流だったが、これからは気取らないが、心を込めて手作りしたという家庭の味、本場の味が豊かさの象徴になる。どんなカテゴリーの料理にも「ハレとケ」があり、これからはケを売る戦略が狙い目だ。
スローフードという用語は使われなくなっても、この概念は拡大し、イタリア料理店にとって新たなテーマとなるに違いない。このコンセプトの店はまだ少なく、業態的にも幅広い価格帯での展開が見込めることも注目に値する。
◆中食・CVS
CVSのスパゲティアイテムは定番化しているが、最近はベンダーが品質向上に力を入れており、トッピングやソースが改良され、とくに麺の食感や味がとても良くなっている。しかし、一八〇円のグルメおにぎりが売れているように、スパゲティも三〇〇円台にとどまらず、もっと上を狙っても需要があるはずだ。
たとえば今年ampmが「ラ・ベットラ」の落合シェフプロデュースによるスパゲティを売り出したが、非常に完成度が高く、CVSとしては珠玉の作品。ベンダーは大変で原価率もぎりぎりだが、苦労してもあのレベルの商品の開発は必要だ。
単価は五〇〇円弱と高めだが、おいしいとすぐわかるレベルなら顧客は高くても納得する。全体ではわずかな比率でも、客単価アップに貢献し、長期的に店のイメージアップにつながる。
CVSのスパゲティは七対三の割合で、男性客の割合が多い。本来ならスパゲティは女性客を取り込める商材にもかかわらず、いまの内容では支持されていないことが分かる。女性へのアピールがもっと必要だろう。
もっとおいしくするためには、包材の工夫も欲しいところ。いまは麺の上にソースを直接乗せているので、麺がふやけやすい。たとえば別々にパックするほか、ゼラチンシートを麺とソースの間に挟んで、レンジアップすると溶ける、というようなアイデアもある。
また、メニューの目新しさも課題だ。より本場ものに近づけるためには、生ハムをプロシュートに替えるなど、一部でもイタリア風の食材と使うことで、それをキャッチに顧客の関心を引き、購買につなげる工夫がほしいところだろう。











