新春特別号・日本のファストカジュアルを読む 不況吹き飛ばす起爆剤に!

2005.01.03 295号 1面

昨年は米国産のニューウエーブとして言葉が伝えられてきた「ファストカジュアル」。二〇〇五年の今年は、日本の外食市場の注目株となりそうだ。低価格の限界、チェーンレストランの陳腐化、相次ぐ出店ラッシュによる過当競争、個人消費の伸び悩み、依然として続く米国産牛肉の禁輸、そんな外食不況を吹き飛ばす起爆剤になり得るのか。「ファストカジュアル」を徹底検証する。(阿多笑子)

「八八〇円の超高級ハンバーガー」。昨年モスバーガーは「ニッポンのバーガー匠味」の第三弾「アボカド山葵」で、ハンバーガーとしてこれまで最高の価格を打ち出した。マクドナルドのハンバーガーの実に一〇倍以上の価格だ。素性の分かる肉や野菜を使用し、一〇分以上の調理時間をかけて出来たてを提供する。

高級バーガーは、やはり平成11年にモスが先陣を切って五〇〇円バーガーを発売したが惨敗に終わった。だが今回は単なるグルメバーガーではない。「緑モス」という「ファストカジュアル」の新業態から発する専用メニューなのである。モスは将来的にファストフードの「赤モス」を全店「緑モス」に転換する計画だ。

一方、中華の宅配チェーンが仕掛けたファストカジュアル「チャイナクイック500」は、「芝海老と卵のチリソース飯」「フカヒレスープチャーハン」など店内のメニューが 全品五〇〇円。料理はオーダーを受けてからプロの料理人が鍋を振る。レストランのように明るく落ち着いた雰囲気で、女性も入りやすく、本格中華をワンコインで楽しめる。

「ファストカジュアル」を具体的に定義するのは難しい。一般的には「レストラン並みの高品質な商品やサービスを、ゆったりと落ち着いた快適な空間で提供する」というもので、テークアウトもでき、価格はファストフードとファミレスの中間と位置付けられている。

◆米国のファストカジュアル

米国では、そのルーツといわれるのが「Fuddruckers」というハンバーガーチェーン。マクドナルドなどの大手ハンバーガーチェーンの素材や調理に、消費者が不信を抱いていることに気付き、すべての素材を生から手づくりし、その工程を客席から見えるように工夫して人気を得た。

米国でのファストカジュアルは、一九九〇年代から台頭し始めた。一見ファストフードと同じようなセルフサービスかセミセルフだが、食材は加工品を使わず生の状態から、電子レンジやうまみ調味料など使わずに手づくりする。健康や安全性に配慮したイメージをつくり上げて、ファストフードと一線を画した。

現在のファストカジュアルには、大きくは二つの潮流がある。まず「Fuddruckers」のように、ファストフードのアンチテーゼから付加価値をつけたタイプ。次にカジュアル・レストランの専門料理をより手軽に利用できるよう大衆化したタイプだ。いずれも温かみのある落ち着いた内装で、アルコールを置き、ディナー需要にも対応する。

客単価は六~九ドル。業種はハンバーガー以外に、メキシカン、サンドイッチ、スープ・サラダ、イタリアン、中華、デリと幅広い。

米国でこのファストカジュアルが注目されたのは、外食全体の売上げの五%足らずのシェアにかかわらず、伸び率は二桁と成長性が高いことだ。特に一八~三四歳の高所得者で、カジュアル・レストランには行くが、ファストフードには行かないという食に敏感な層の支持を集めている。

売上げが低迷していた大手ファストフードは、こうした動向に敏感に反応し、その成長ノウハウを取り入れるために、さまざまなファストカジュアルを買収した。有名な「ボストン・マーケット」「プレタ・マンジェ」もマクドナルドの傘下に入った。

その結果、マクドナルドはディスカウント路線を改め、「ミールサラダ」など健康的なメニューの開発で、二〇〇三年10月には売上げ低下に歯止めがかかり、第3四半期の売上げが一二%アップした。

こうしたファストカジュアルのノウハウを取り入れたファストフードチェーンは、現在は業績を回復しつつある。とくに米国は景気が戻ってきたこともあり、健康志向が強くなっている。

◆日本のファストカジュアル

日本では、こうした米国の成功事例に学ぼうと、ファストカジュアルを研究する企業が増え、昨年からそれが具体的に表れ始めている。

「潜在ニーズは大きく、マーケットは有望。みな虎視眈々(こしたんたん)と狙っている」とFSプランニングの押野見喜八郎氏はいう。グルメブームが終えんし、高級業態でディナーを食べる時代は去り、日常のおいしさを追求するライフスタイルになってきた。

しかし、過去のHMRやカジュアルレストランのように、米国のトレンドをそのまま日本に当てはめようとして失敗した例は多い。

日本人仕様に、どう意訳するかが課題だろう。逆に日本でも、ファストカジュアルのような業態、使い勝手をしている業態はすでにある。

モスバーガーは、創業時から素材にこだわり、手づくりというコンセプトで、ファストカジュアルの下地があった。最近ビルのテナントに必ず入る「スープストック・トウキョウ」やベーカリーカフェも、ファストカジュアルの範ちゅうといえるだろう。

また、オフィスビルやフードコートでは、最近テークアウトできる専門店が増え、使い勝手としてはファストカジュアルに近くなっている。

保守的な米国人より、日本は「さまざまな業種でファストカジュアル化が可能」とはカシェットの佐藤巧三氏は言う。

「米国のメキシカンのように、日本の郷土料理の業態もできるし、カウンターしゃぶしゃぶも単価を下げればファストカジュアルになる。台湾ではカウンター鉄板がはやっており、これも日本人にも受けるだろう」

ファストカジュアルに一番関心を示しているのは、やはりファストフードチェーン。ロッテリアはモスに続き、「ロッテリアプラス」で高品質バーガーの実験を始めている。一方マクドナルドは、元祖ファストカジュアルのひとつ、プレタマンジェから撤退、本業一本に絞る考えで、米国同様にディスカウント路線をやめ、メニュー開発に力を入れている。新たに新業態を作るより、既存の業態を見直す方が効率的だ。

問題はファミリーレストランなど、ファストカジュアルによって顧客を奪われる危機のある業態だろう。米国のファストカジュアルに詳しい清晃の王利彰氏は、「立地環境、厨房システムなどが異なるため、ファストカジュアルそのものに転換することは難しいが、ファストカジュアル的要素を付け加えることはできる」と言う。

手づくり感のあるヘルシーなメニューを提供する、テークアウトに対応するなどだ。「セミセルフ」にすることで、人件費を節約できるというコストメリットの考え方も出てきた。

また居酒屋も、ファストカジュアルへの進出を狙っている。最近はおいしい料理を主役に、手軽にアルコールを飲みたいというお客が増えている。

ただ立地の選定は重要だ。「ファストカジュアルは都市型。ビジネスマンや高所得者のいる集客性の高いロケーションではないと成功しない」といわれ、客単価がレストランより低い分、回転率を上げないとコストが合わなくなる。

日本橋に居を構え、ファストカジュアルの業態開発を進めている先の佐藤氏は、「東京イーストと呼ばれる中央区、千代田区、江東区がこれからファストカジュアルの舞台になる」とにらんでいる。ビジネスランチが見込めるほか、いまはデザイナーズマンションの建築ラッシュだという。

こうしたビジネス街にコンビニはあるが、日常利用できる外食店は乏しい。これから夜の人口は増え、とくにディナー帯も回転できるファストカジュアルにとっては、まっさらな市場が眠っている。

しかし課題もある。米国との最大の違いは、日本の景気がまだ完全に回復していないということだ。付加価値を追求するために生まれたファストカジュアルがブームになるには景気が良くなることが必要。これが、日本でファストカジュアルの業態開発に二の足を踏むトラウマになっている。

ただし景気が戻ってから準備をしたのでは出遅れる。参入を狙う大手チェーンは、自社で業態開発をする以外に、芽の出てきたローカルのファストカジュアルを、米国のように買収するという方法をとるだろう。

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