クローズアップ現在:ニッポン的な繊細さで進化 無敵のアイスクリーム

2025.07.07 557号 07面
ハーゲンダッツジャパンは夏の新プロジェクト「JAPAN MIND(ジャパン マインド)」として、日本のよさを表現したアイス3シリーズ4品を発売

ハーゲンダッツジャパンは夏の新プロジェクト「JAPAN MIND(ジャパン マインド)」として、日本のよさを表現したアイス3シリーズ4品を発売

アルコール度数5%のSAKEICE「百光」(3,000円・税込み)。日本酒らしさをしっかりと感じる味わいで、アルコールが高級感をプラスしている。日本酒専門バー「SAKEICE BAR!」(東京・八重洲)でイートイン販売

アルコール度数5%のSAKEICE「百光」(3,000円・税込み)。日本酒らしさをしっかりと感じる味わいで、アルコールが高級感をプラスしている。日本酒専門バー「SAKEICE BAR!」(東京・八重洲)でイートイン販売

フルーツを贅沢に使うことで見た目も映え、高価格設定も可能。京都駅ビル8階のカフェ「FUKUNAGA901」で7月初旬まで限定販売している新作パフェ「さくらんぼやま」(2,000円・税込み)はフルーツを使い、オリジナリティーを出した好例

フルーツを贅沢に使うことで見た目も映え、高価格設定も可能。京都駅ビル8階のカフェ「FUKUNAGA901」で7月初旬まで限定販売している新作パフェ「さくらんぼやま」(2,000円・税込み)はフルーツを使い、オリジナリティーを出した好例

 あるテレビ番組で“冬に食べたいスイーツ”を街でアンケート調査した結果、温かいおしるこよりもアイスクリームが上位となっていた。暖房が入った家の中で食べる冷たいアイスはおいしさも格別で、アイスクリームは通年のスイーツとして定着している。春夏秋冬で季節ごとの限定アイスを出しているメーカーもある。老若男女に愛されるスイーツでありながら、アレンジしやすい懐の深さもあり、多角的な要素から見て日本のアイスはまだまだ進化の余地がありそうだ。

 ●世界でも珍しい 日本のアイスクリーム

 訪日外国人が驚くらしい。日本のコンビニは狭い店内の中に多種類のあらゆるタイプのアイスが売られていて、どれも安価でクオリティーが高い。棒アイスにカップアイス、チューブタイプに氷菓タイプ、ラクトアイスからプレミアムまであり、クッキー入り、餅入り、パリパリ食感を楽しむ、スプーンで混ぜながら食べる、一口サイズ型など、形状や食感、フレーバーもそれぞれ個性的だ。日本では当たり前のアイスクリームの種類の豊富さは、世界から見れば稀有だ。日本人の食に対する繊細な感覚や五感を楽しむ食習慣など、さまざまな慣習や歴史、文化が凝縮されて現代のアイス市場を作り上げたように思える。

 ●外食産業にとっての存在価値

 外食産業においてもアイスクリームは利便性が高い。カフェや軽食の店から居酒屋などのアルコールを伴う店、コースを主流に展開するフランス料理店まで、業態を問わずアイスクリームが提供される率は高い。例えばカレー店や居酒屋がスイーツを1種類置く場合、アイスは選択されやすい。定番のバニラのほか、その店ならではのアイスを提供することでオリジナリティーも出しやすいので、筆者もメニュー開発をする際にオリジナルメニューとして取り入れることがある。トッピングや形状を変えたりするだけで、SNSに映えるものも作れる。スイーツも食べられないほど満腹だったとしても、アイスなら食べられそうだ、という感覚はあるだろう。そのため客単価アップにつなげることもできるし、キャンペーンなど利用した集客のツールにもなり得る。

 ●さまざまな食材とコラボし、多角的に利用が可能

 観光地では、北海道のメロンアイスや、福島県の桃アイスのような季節の食材を入れたアイスがあり、フルーツに限らず、例えば湘南の「しらすアイス」、長野の「野沢菜アイス」など地域の食を意識した商品もある。地域活性化や地域PRにも使用することが可能だ。

 4月、こだわりの日本酒を取り扱う「SAKE HUNDRED」と、日本酒アイスの「SAKEICE」のコラボ商品として、アルコール度数5%の高アルコール度数アイスクリーム「SAKEICE」が発売された。1カップ3000円と強気の価格だが、インバウンドや日本酒好きの人、逆に日本酒初心者の最初の出合い方としてもアイスの形にすることで食べやすいのではないだろうか。「SAKEICE」は、そもそも免許が必要だったアルコール度数1%超のアイスの製造・販売において、法令の解釈を変更するよう国税庁に働きかけて誕生したのだという。筆者も食べたが、まろやかで深みがあった。日本酒を世界に広めていくにもアイスの形にすることでハードルが下がり、PRのシーンの幅は広がる。

 以前、ホテルのビュッフェメニュー開発にご協力した際、ホテルの土産として販売していた日本酒をソフトクリームに合わせる食べ方の提案をしたところ、日本酒の売上げアップにつながったことを思い出した。アイスクリームは単体でも失敗しにくいアイテムなのだが、その上、他の食材を引き立たせることもできる。老若男女が好むスイーツという土台に加えて、こうした汎用性が加わりアイスクリームの強みになっているといえる。

 ●アイスクリームの市場の可能性

 日本のアイスクリーム市場は、2023年から32年までに53.6億米ドルから69.6億米ドルまでの収益増加が見込まれ、24年から32年の予測期間にかけて年平均成長率(CAGR)が2.96%で成長すると予測されるとのこと((株)レポートオーシャン調べ)。大豆を使用して乳脂肪を避けたアイスは売られているが、ヴィーガン対応やアレルギー対応のアイスの市場としてはまだまだ発展の余地もある。アイスはコンビニのカップアイスの100円台から数千円台まで売価のふり幅が大きく、さらに利用目的もさまざまに広げることができ得る商材でもある。気候の関連からみても暖冬と酷暑は今後も続くと予想されており、アイスクリームの市場はこれからも伸びそうだ。

 (食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 メニュー開発・大学兼任講師 小倉朋子)

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