料理の潮流トップシェフインタビュー:「ラ・リオン」オーナーシェフ・佐藤伸夫氏

2005.06.06 301号 13面

三國シェフの片腕として、ソシエテミクニの数々の店舗を統括してきた佐藤伸夫シェフが一昨年独立。住宅街の店舗で、日常食に活躍のステージを広げた佐藤シェフに、その戦略と展望を聞いた。

‐‐ミクニでの最後は横浜のコートダジュールにいらしたそうで。

佐藤 支配人兼総料理長でした。客席は200席あるという、日本で初めての大型フレンチでしたから、そのため精神的にも肉体的にも重労働でしたね。売上げも億に近く、それを維持していくプレッシャーもありました。ブライダルサロンなどと提携して、ウエディング需要を掘り起こす努力もした。多い時は年間70組がウチで披露宴をしていたんですよ。

‐‐いまは当時と変わってきましたか。

佐藤 バブルの時は高級店が圧倒的に多くて、ビストロはシェフの有名店が数店でしたが、いまはそれが逆転している。単価が8000~1万円で、料理もそこそこの中間クラスのレストランが一番厳しくなってます。

それからウエディングも、最近はホテルに回帰してきている。チャペルを完備しているホテルが増え、宿泊サービスもしていますから、トータルで見るとそちらに流れる。以前ほどレストラン・ウエディングのオーダーはなくなっているようです。

‐‐03年10月に江古田で「ラ・リオン」をオープンされた。

佐藤 はじめは都心立地を考えていたのですが、坪単価が高くて手が届かない。ちょうど知り合いだった江古田のアンジェリーナさんから「撤退するけれど居抜きで借りないか」と声がかかって、調査をしたところ、学生街だけど周囲には立派な屋敷街もあり、富裕層が多いと分かった。付近には斎場もあり、会食などのニーズもあるだろうと開店に踏み切りました。

僕は、中途半端な店をやりたかったんです。お客さんの使い勝手に自在に合わせられる店。ウエディングもでき、デートもでき、小さな子どもがいてファミリーで食事もできる。

ここ江古田は、恵比寿や青山と違って住宅街ですから、そうした多様性を持って展開していかないと生き残っていけないでしょう。だから外販もするし、カフェも併設しています。僕自身も厨房ではなく、毎日ホールに出ている。近所のお客さんがほとんどですから、いまはお客さんの顔を覚えて、僕の顔も覚えてもらう時期だと思ってます。

また価格も、都内のグランメゾンと比較すれば、かなりリーズナブルな設定にしています。ランチは1890円、ディナーも5250円。それでも、この地域のお客さまに日常として利用していただくためには、もっと安くできた方がいい。

僕は料理で自分を表現するというより、地元に密着して「おいしかった」といってもらえることが、一番の関心事なんです。ある程度のレベルのものが、いつも変わらず出てくるということをやり続けたい。

‐‐店内で惣菜を売っているのは珍しいですね。

佐藤 自家製のソーセージ、パテ、リエット、サラダなどいまは8種類くらい。レストラン内で惣菜を売っているのは、ウチだけだと思いますよ。

外販は最初からやろうと考えていました。一種の広告塔です。近所の方がフレンチを食べ慣れているかというと、決してそうではない。でも惣菜を買っておいしかったら、レストランにも来てもらえる。レストランのお客さまも、また惣菜を買って下さる。惣菜だけでも利用できるように、カフェと惣菜は朝の9時から営業しています。

接客に手間はかかりますが、長い目でみれば、相乗効果があります。実際に、週2回も来る近所のおばあさんもいますし、ホームパーティーの手土産に持っていかれる方も多いですね。店内で作ってますから、デパ地下よりリアリティーがある。これからはホームページで通販も始める計画です。

またできれば将来は、簡単な惣菜だけでなく、フォアグラのソテーなど店と同じメニューも、テークアウトできるようにしたいですね。「今日は家でくつろぎながらフレンチを食べたい」と思う人は多いはず。僕自身もそうですから、潜在的なニーズは必ずある。お客さまが求めているのに、「ありそうでなかったもの」にスポットを当てていく。

ワインについても、ウチは古いビンテージ以外は、リストに載っているほとんどのワインをグラスで試していただけます。店側のリスクは大きいですが、これも10年先を見据えた顧客づくりのためです。

‐‐やはり素材にこだわっていますか。

佐藤 桃園豚はミクニ時代にほれ込んで、独立したらぜひ使いたいと思っていました。お客さんは、ほとんどのものを食べつくしてますから、料理は素材をおいしい状態で出すのが一番。また日本人は魚と野菜に反応がいいので、できるだけ素性の分かるものを使うようにしています。だけど日本はいいものが高い。そればかりは使えませんから、価格を抑えるために、どこでコストを削ったらいいか難題です。

またトータルでみれば、料理も大切ですが、僕はいまホールにいることで、お客さまの目線で店内が見られる。観葉植物が枯れかかっていたり、窓のサッシに埃がついていたりという部分を、お客さまは店の評価として見ている。だから全体でコスト配分をしていくことが、店の運営では重要。厨房にいるだけでは見えないことです。

(文責・阿多笑子)

◆プロフィル

さとう・のぶお=1965年東京生まれ。18歳で富士屋ホテルに入社。85年から仕事の傍らフランスに行き、ビストロで修業する。91年ミクニグループ「アズキャフェ」に入社し、フランス料理「リヨン」のシェフを経て、「コートダジュールミクニズ」の支配人兼総料理長に。ソシエテミクニ統括スーパーバイザーの後、独立。(「ラ・リオン」所在地=東京都練馬区豊玉北1‐3‐24、電話03・3993・4433)

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