新春トップインタビュー:ワタミ代表取締役社長兼CEO・渡邊美樹氏
ワタミ(株)(東京都大田区、電話03・5737・2784)の渡邉美樹社長は、「第2の創業」と位置づけた昨年に引き続き、今年も外食、農業、環境、そして介護を柱とする多角総合経営を展開する。外食事業では、2020年までに2000店舗体制を築き、居酒屋市場のシェア2割獲得を目指す。また、今後注力する介護事業では、2020年までに1000棟の介護施設運営と売上高3000億円を目指し、少子高齢化社会への貢献を図る。
居酒屋市場全体を総括すると、相変わらず厳しい状況が続いている。市場規模は前年比3~4%減と推測している。
厳しい要因は、景気とはあまりリンクしていない。アルコールを飲む人口が減少、飲む機会の減少など、景気の先行き不透明感とは異なる流れが逆風として吹き荒れている。
景気自体は下降線も底を打ち、ゆるやかな上昇傾向にあると思う。中食、ファストフードなどは、堅調に業績を積み上げているのではないか。
このような状況下、当社は目標設定を明確にした。居酒屋市場の2割を2020年までに獲得する。現況のまま居酒屋市場がシュリンクする前提で概算すると、2020年の居酒屋市場規模は約1兆円。つまり、ワタミが2000億円の売上げを占めるまで持っていく。
これまで「和民」を中心に“店”での店舗展開を行ってきた。2020年の目標を実現すべく、今後は多業態戦略による“面”での店舗展開に注力する。同時に全国展開にも本格的に着手する。本年は仙台、金沢、熊本、そして来年度は北海道へと。これまで未出店だった地域にも積極的に進出する。
来年以降は毎年145店舗を出店。このペースで3年後の2008年には1000店舗達成を実現。2020年までに2000店舗展開を目指す。つまり、2008年までは急激な出店攻勢をかけて市場の主要シェアを獲得。以降、出店ペースは年間約100店舗程度にとどめる。これらの拡大策により、ワタミを外食市場のリーディング企業に育てる方針だ。
当社は基本的に、仕入れからメニュー開発まで、すべて独自ルートで手掛けている。とくに農産物については、契約栽培などの相対取引に注力している。これは、独自のマーチャンダイジングを育んできた結果の強みである。
当然、物流面は業務用卸とタイアップしている。独自の物流網構築も合理的ではある。しかし、コストパフォーマンスなどを勘案した場合、現段階では地域の有力業務用卸に依頼したほうが有利であると判断している。したがって、業務用卸各社とのコミュニケーションを、一層密にしていく必要がある。
しかし、「第2の創業」を推進すると、数年後には店舗規模が大幅に拡大する。リスクマネジメントを考慮すると、さらに全国卸との一括物流も視野に入れなければならないだろう。
2020年を目標とする2割シェア獲得。これに向けた当社の強みは、異業種店舗を立ち上げる際に、新たな人材育成の必要がないことだ。なぜか。和民を中心とする居酒屋などで、現場スタッフが本気でマーチャンダイジングしてきた。手作り主体の居酒屋運営で培ってきたノウハウと人材は、何にも勝る財産である。従って新たな人材育成、流通ルート、ノウハウ構築の必要がない。和民で得た専門性の高いカテゴリーを、一つの独立店舗とするだけで、異業種参入が可能となる。
企業の果たす社会的責務。これは企業が本業にまじめに取り組むことで、社会的責務を果たしていることになると考える。当社の場合、外食、農業、環境、介護といった、ワタミグループの事業展開を通して、社会的責務を十分に果たしていると思う。企業の活動自体が社会貢献していると自然に評価されるのが、本来のあり方だと考えている。
わが国が少子高齢化社会へと変貌を遂げる中、人口ピラミッド図も当然大きく変わってくる。それでも、1兆円の居酒屋市場は存在するが、居酒屋ニーズも大きく変化するだろう。当然、業種業態の再構築が必要となる。弊社が居酒屋市場の2割を占めるためには、常にストアコンセプトをブラッシュアップしていく必要がある。これが少子高齢化社会に対する当社の対応だ。
また、当社は外食市場でのトップを目指しているわけではないことを強調したい。外食産業のポートフォリオとして、急激に成長する市場、すなわち介護市場でのトップシェア獲得を目指している。
ついては2020年までに3000億円の売上げ達成を目指す。2006年度に介護施設4棟を運営、2007年度には8棟と、倍々で規模を拡大する方針だ。そして、70~80棟を拠点的にまず構築。2020年には1000棟に拡大する予定だ。
また、介護事業は正社員の比率が高い。1棟当たりの従業員が40人と計算すると、1000棟で、4万人の従業員が必要となる。これだけの人材、しかも良質な人材の確保を国内のみでリクルートできるか。国の高齢者対策とのリンクで裁定されていく問題であろうが、個人的には、発展途上国などからの移民人材を受け入れるのが良策と考えている。
このほど、介護企業の(株)アールがワタミグループの一員となった。しかし、今後は企業買収は行わず、「ワタミならではの介護」を構築していく。そのために、人材開発も新卒採用を基調とする。なぜか。ワタミの文化を純粋な心で吸収し、既成概念にとらわれず、ワタミならではの介護事業を培ってもらいたいからだ。
◆プロフィル
わたなべ・みき=1959年神奈川県生まれ。明治大学商学部卒業。佐川急便の配送で資金を作り独立。「つぼ八」のFCオーナーを経て、居酒屋「和民」で事業拡大。現在、外食にとどまらず、農業、環境、福祉、教育にいたる多角経営を手掛ける。
◆ワタミ(株) 本社所在地=東京都大田区羽田1‐1‐3、電話03・5737・2288/創業=1984年4月/設立=1986年5月/資本金=43億2,007万2,000円(2005年3月31日現在)/従業員数=グループ計2,791人(同)/店舗数=480店(同)