料理の潮流:「フレンチ食堂 プティ・メゾン」オーナーシェフ・牧田修治氏

2006.02.06 310号 13面

業界の常識を覆す580円ランチで、一躍オフィス街にフレンチの需要を開拓した「プティ・メゾン」。とくに女性のハートをつかむ戦略で、着実に口コミ客を増やしている。ハレから日常へとより身近になるフレンチの展望を聞いた。

‐‐580円のスープランチは、どういう経緯で生まれたのですか。

牧田 もともとフランスのレストランは、宮廷から下がった料理人が民のために、元気の出る料理としてスープを提供したのが始まりといわれています。スープは胃にも優しいので、二日酔いや食べ過ぎの翌日にもいい。これまではサイドメニューだったスープを、タンパク質や野菜を入れてバランス良く、メーンディッシュにできないかと考えました。

一方、新橋という立地で、若い女性や中高年の男性にフレンチが受け入れられるためには、まず「フレンチ=ハレのもので高い」というイメージを払拭したい。そこで目玉のランチとして、スープをやろうと。金額は「女性が昼にスープを食べるなら、これぐらいだろう」と決めました。当時もうスープ・チェーンが出始めていましたが、量が少ないわりに高くて、納得いかないと思ってましたね(笑)。

お客さまには、少しでも喜んでいただきたい。そのコンセプトは変えたくないので、いまも580円のまま値上げはしてません。でも、万一スープがうまくいかなかった時には、代案として「フレンチどんぶり」なども用意してたんですよ。

結果、業界のセオリーとして、ランチ客が夜にも来ることは少ないですが、ウチは夜の常連客にもなっていただいています。

‐‐フレンチのニーズはどう変化していますか。

牧田 食べるシーンに応じて、お客さんの選択の場が増えました。僕は、年1回ハレの日に行くレストランではなく、月1回、週1回と日常的に利用していただける店にしたかった。年1回より、数多く来て、たくさん幸せになってもらいたいんです。

とくに新橋は男性の街で、女性向けの店は少ないですから、女性が気軽に一人でも立ち寄れる、残業のあと、おいしい料理でリフレッシュできるような居酒屋感覚のビストロにしようと思った。

だからコースもありますが、手軽なアラカルトを幅広くそろえてます。お客さんの方も食材に対する知識が増え、昔より積極的に注文されるようになりました。何度も来店いただくお客さまには、メニューにない料理もお出しします。一品料理を増やすことは、ロスや原価の問題がありますが、高い究極な料理を出すことよりも、「お客さまの究極の満足を追求すること」が目標です。

また、新規と常連の両方のお客さんに満足してもらうためには、常に新しい企画でアピールしていくことが重要。ウチの一番の媒体は、広告ではなく、店の前に出してあるカラーコピーのチラシ。これの持ち帰り率が高い。

季節ごとのメニューのほかに、鍋フェア、大皿のパーティープランなど打ち出して告知しています。フレンチは、忘年会や新年会を取りづらいですが、飲み放題プランを企画することで、幹事さんからの受けもいい。ドリンクもワインだけでなく、ビール、焼酎もそろえています。

今年は3周年を迎えることもあり、年間行事をもっと増やしていきたいですね。とりあえず次の目玉はデザートフェア。女性はともかくデザートが好き。ランチでも、スープランチに400円のデザートセットを追加する女性が多いんです。

だからフレンチのきっかけには、高いメーンディッシュより、手ごろなデザートから攻めた方が入りやすい。それも、ウコンなど健康に良い食材を使ったもの。新橋の駅前で、野菜ジュースを飲んでいるサラリーマンも食べたくなるようなデザートですね。

‐‐フランス料理界の展望は。

牧田 スペインのバールが注目されているように、フレンチの立ち飲みがあっても面白いでしょう。つまみはエスカルゴや魚の串焼き。私としては、二ツ星、三ツ星のグランメゾンより、フランスのファミレスのようなビストロが日本に上陸したら脅威だと思っています。

日本人はまだフランスの文化にあこがれを持っていますから、本場の雰囲気そのままにギャルソンがいて、おいしいワインがあって、安ければ絶対はやる。より手軽に生活の中に入り込んだ業態です。これまでそこに目をつける人がいなかっただけで、これからはそうした流れになってくるでしょう。

◆プロフィル

まきた・しゅうじ=1963年愛知県生まれ、長野育ち。地元の料理店で修業の後、上京し、88年「ホテルワトソン」(東京・目黒)に入社。90年に休職し渡仏。南仏を中心に3年間腕を磨く。94年ホテルワトソンの「メグウェスト」の総料理長に就任。2002年同ホテルを退社。03年3月新橋にプティ・メゾンをオープン、オーナーシェフに。次世代フレンチのシェフ組織「クラブミストラル」会員。

◆「フレンチ食堂 プティ・メゾン」(東京都港区新橋2‐12‐9、電話03・3504・1988)

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