ノロウイルス被害続出、冬場の食中毒にご用心 問われる危機管理意識
8月末と9月中旬、東京都世田谷区の医療施設で、給食による集団食中毒が相次いだ。発熱、おう吐、下痢などの病状を訴えた発症者は2件で94人にのぼり、関係者を震撼させた。検出された病原物質はノロウイルス。冬場に猛威をふるうウイルスだが、今回の事故は汚染された食材を扱った調理者を介し、被害が拡大したと推測される。食品事故による信頼の失墜は、食品業界に生きる企業にとっては致命的だ。衛生管理に力を入れる外食産業、病院、給食、弁当・惣菜業界などの大量調理の現場では、食中毒対策に余念がない。早期のリスクマネジメントがウイルス感染を未然に防ぐ最善の方法となる。
ノロウイルス対策には、食品の加熱調理と徹底した手洗いが不可欠だ。特に手洗いの徹底は、各職場でできる最も身近な衛生対策として、保健所でも実施を呼びかけている。
その手洗い用消毒薬として注目されているのが明治製菓(株)(くすり相談室=東京都中央区、03・3273・3474)の「イソジンウォッシュ」。有効成分としてポビドンヨードを含み、迅速な殺菌効果を発揮する。ノロウイルスと分類上近縁のカリシウイルスを約10秒で不活化し、人体に使用できる消毒剤だ。
東京大学大学院農学生命科学研究科の遠矢幸伸助教授は「ノロウイルスは培養細胞で増殖できず、消毒薬による不活化効果の評価が困難なため、培養細胞で増殖してノロウイルスの代替ウイルスとして繁用されているカリシウイルスを試験に用い、他の消毒剤、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、エタノール等と比較試験を行った結果、ポビドンヨードのみが、試験実施したイヌとネコのカリシウイルスを10秒間で検出限界以下まで不活化しました」と、その効果も実証済みだ。
大手コンビニでは昨年、弁当・惣菜などの納入業者に対して、イソジンウォッシュの使用を要請。「トイレ後の手洗いで使用を徹底している」(惣菜メーカー関係者)という。
食品衛生優良施設として厚生労働大臣から表彰を受けているホテル日航東京でも、2年前から同製品を導入。従業員には年間を通し、トイレや調理場での利用を促している。「食の安全は経営の基盤であり、社会への責務。衛生に対して考えられる対策はすべてとっている」と、危機管理の意識は高い。
販売元の明治製菓では「問い合わせの多さに現場の危機意識の高さを感じる」と、高まる需要に備え、販売体制を整えている。
東京都福祉保険局によると、昨年東京都で発生した食中毒の約半数がノロウイルスに起因する。さらに、昨年秋冬(05年9月~06年3月)の食中毒発生件数は54件(前年同期35件)、患者数は1240人(同990人)で、件数・患者数とも増加傾向にある。