お店招待席 とんかつ専門店「勝久」(赤羽) オリジナルのたれで固定客の6割確保
JR赤羽駅東口から一分。シルクロード商店街の入口から二〇mほど行った左手。かつては街の中心ゾーンとして賑わっていたというのだが、現在は駅の西側に活気が移って、薄暗いアーケードの商店街がわびしい感じだ。
店は木造二階建ての二階。一階は父親が経営する写真ショップで、二階は以前は住居として使っていた。オーナーの大石敏久さん(42)が、ここを父親から借りて、三年前の八月に開業資金一二〇〇万円をかけて改装し、とんかつ屋に衣替えした。
店舗面積六坪、カウンター九席の小さな店だが、店内は清潔でアットホームな雰囲気が漂っている。
大石さんは独立開業する前は、東武デパート(池袋)のとんかつの店「梅八」でコックをしていた。このキャリアは途中焼肉店の経験もあるが一三年の実績がある。
料理作りは、小さいころから好きだったので、大学を出てこの道に入ったのだが「梅八」ではマニュアルと決められたレシピーの中でしか料理が作れなかったので、その面での不満があった。
だから、自分の店を持って自分が納得する料理、味づくりがしたいという要求が強かった。父親から物件を借りて独立開業したのは、そういう思いからだったが店の経営となると厳しい面が出てくる。
「オープン当初は、まだバブルがハジケていませんでしたから、客の入りもよかったんですが、その後は大変に厳しい状況で、最近になってようやく店の存在が知られ、固定客が着くようになりました。でも、正直言って経営的にはまだまだ目標以下の水準で、もっと店の売り物をアピールしていかなくてはと思っています。おかげさまで、味づくりについては、自分なりの自信を持っていますので、地域一番店になるよう頑張って行こうと考えています」(大石敏久さん)。
味づくりといえば、まず油、とんかつはカラリッと揚げることがポイントという考えで、ラードを使っている。油温は一八〇度。塩、コショウした豚肉に小麦粉をつけ、溶いたたまごに浸す。それに荒いパン粉をからませる。
これをフライヤーに投入して六分ほどで揚げる。出来上がりは、サクサクと歯ごたえのあるとんかつに仕上がる。添えもののキャベツもパリッとしていて新鮮だ。
肉類は業者を通して仕入れているが、キャベツなどの野菜は近くの八百屋から選んで買っている。キャベツはとんかつを引き立たせる大事な付け合わせで、新鮮さはもちろんのこと、サクッとした歯ざわりがポイントで、これは線切りにしたものを二時間ほど水に浸しておいたものを出すという工夫をしている。
とんかつの最後の決め手はタレにかかってくる。肉・衣・キャベツの三つを合体させて、一体的なうまさに高めるのはタレそのものだ。
だから、大石さんが作るタレはオリジナルの自信のタレだ。これは“企業ヒミツ”であるので、ディテールは明らかにできないが、市販のケチャップにソース、醤油などを独自にブレンドしたものだ。
肉はメニュー内容によって冷凍、フレッシュミートと二つを使い分けているが、メニューは、すべて客からのオーダーがあって作り始める。前もっての調理加工など作り溜めは一切しない。
客に常にフレッシュなもの、温かいものを食べてもらいたいというプロ意識がそうさせるわけだ。
「とんかつ料理というのは単純なものですから、いい材料を使って、作り立ての温かいものを食べていただくということが一番だと思うんです。ですから、折角そういう考えで調理して出しても、冷めないうちに早く食べてくれないと嫌な気分になってしまいますね…」(大石さん)。
食べる方にもプロのこだわりのハートを理解して欲しいということか。メニュー単価は九〇〇~一〇〇〇円前後。人気メニューはロースかつ一一〇〇円、梅しそとんかつ一〇〇〇円、野菜とんかつ九〇〇円、ハヤシとんかつ九五〇円、チーズとんかつ八八〇円(各定食)ほか、ヒレステーキ定食一〇〇〇円、ジャンボとんかつ(一二〇㌘)定食九〇〇円など。
日中は奥さんの敏子さんが手伝ってくれる。パパママ経営のとんかつ屋というわけだが、場所のハンディもあって現在のところ坪売上げは坪一万円にもとどかない。
明年内には日商七~八万円くらいは確保したいと考えているが、常連客が六割になって、客から近接地に最近出店した「和幸」や目黒の「とんき」よりおいしいと言われるのが先行きの希望と大きな励みだ。
(しま・こうたつ)
・住所/東京都北区赤羽一‐二二‐一〇
・電話/03・901・0017
・営業時間/午前11時30分~午後2時、午後5時~9時無休