飲食トレンド コメ不足、外食産業を直撃 コストアップ分の転嫁もままならず

1993.11.01 39号 1面

「10月21日出荷分から値上げいたします」‐‐。戦後最大のコメの凶作の影響は早くも外食産業の台所を直撃、大手炊飯業者は10月中旬から下旬にかけて一〇%~二〇%の値上げをユーザーに告げている。「コメの値上がり分は輸入牛肉の関税引下げ分で相殺する」という牛丼チェーン店もあるが、政府の対応が遅れていることもあって先行き不透明感が漂い、外食産業は対応に苦慮している。

「今月上旬から卸店からのコメの供給を五〇%カットされた。仕入れ価格も二〇%アップしている。やむを得ず、10月21日からユーザー向けの白飯を値上げすることにしました」と大手の炊飯業者はコメ不足が深刻になっていることを明らかにする。

「当面、主食用のコメは不足しないはず」と政府は説明しているが、コメ流通界に思惑が走って自主流通米がにわかに不足、高騰し始めている。「11月までは契約しているので不足することはないが12月からは量が確保できても価格と品質は不明だ」(すかいらーく・渡辺鴻取締役社長室長)といった不安感が外食産業界に広がっている。コメの卸売業者が外食業者に示している値上げ幅は一〇%~二〇%の幅だ。一般にファミリーレストランの食材コストは三〇~三三%。「一〇~二〇%コメが高騰した場合、一食のコストアップは三円~四円になる」(渡辺氏)と説明する。折からの不況でコメの価格アップを理由にしたメニュー価格のアップはできそうになく、来店客の減少に頭を痛めている外食産業にとってはダブルパンチになる。関税の引下げ分で相殺できる牛丼チェーン店は恵まれているが、原資が限られている単独店はコメのコストアップをもろに受けることになる。

二代にわたって繁盛を続けている東京・銀座の洋食店「たいめいけん」の茂出木雅章店主は「先行きどうなるのか不明なので、対応のしようがない。素材の質を落とすこともできないし」と事態の推移を見守っている。

価格の問題もさることながら、外食産業が気をもむのは輸入米の使用によって客離れを加速させるのではないかという点。年明け後から主食用の輸入が開始された場合、まず国内産を先に消費することから、実際に輸入米をメニューに使うようになるのは来春からとみられる。

「輸入米に国産米をブレンドして使用している間はよいが、輸入米だけにたよらなくなると品質の問題が生じてくるだろう。にぎり寿しの食味が落ちそうだ」と懸念する声が聞かれる。

「輸入米が一般家庭でも使うようになった場合、安全性の問題がクローズアップするかもしれない」と危惧する向きもある。

輸入米の場合、害虫を駆除するため燻蒸をほどこすが、これによるホストハーベストの問題が表明化し、コメ離れ、外食離れにつながるとの指摘だ。

「台湾、カリフォルニア、オーストラリアの中粒米は浸積時間を国産より短くすればよく、品質は主食として十分通用する。タイの長粒米はピラフ用としてならば使用できる。ホストハーベストを今から騒ぐのはおかしい。問題を起こすような事態にはならないはずだ。政府の措置を信用している」と炊飯業者は冷静にみており、輸入米に対する過剰反応を批判する。

ともあれ、コメ不足と輸入米ショックで外食産業はしばらく振り回されそうだ。

㈱デニーズジャパンの小原芳春社長は「一割強の米の値上げはすでに卸からあり、受け入れざるをえない。円高還元、仕入の仕方を含めて企業努力で吸収していく方針。ただ、問題は問屋にコメが入らない状況もあり、質を含めて量を確保できるかが最重要課題である。今は綱渡りの状態。来年は質がクリアできれば輸入米とのブレンドも考えなくてはいけないと思っている」と語っている。

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