市販めんつゆ 上手に使いこなしメニューを多彩に、ひと手間で自店の味

1992.05.18 4号 23面

江戸時代、大きく膨張する江戸の町の建設に入り込んで来た職人や商人たちが、仕事の会い間に一寸お腹を充たす食としてそばを愛好した。この手軽さ、安直さ、飾りのない庶民性こそ、そばの持つ大きな魅力である。

窮極の味をきわめる老舗のそばも素晴しいが、“ちょっとそばでも食べていこうか”と言われ、手軽に食べられるそばも、また素晴しい。様々なTPOに併せたそば店が一層隆盛になっていくことを期待したい。

しかし、現代は深刻な人手不足、特に、きっちりとつゆづくりの修行を積んできた職人ともなればなおさらである。

麺は製麺所から仕入れても、つゆだけは自店でつくりたいというところから、良いつゆさえあれば、つゆも仕入れて使いたいというニーズが高まって来るのも当然である。

業務用のめん類用つゆは、このような背景から登場し、今、加速的に普及して来ているがその商品化はまず家庭用からスタートしている。醤油メーカー、鰹節メーカー等は、古くからそばの主原料を供給してきた関係から、そば店とのつながりが深く、つゆづくりのノウハウを蓄積してきた。これに成分分析や官能検査等の評価技術を生かして、業務用としての使用に耐えうる品質のめんつゆをつくり出した。

現在市販されている業務用めんつゆの多くは、かえしに濃縮しただし汁を加え、不足するうま味をうま味調味料で補填したもので、素材的にはそば店のつゆと大きな差はない。しかし、量産するため、味のバランスは標準的なものにならざるを得ず、いわゆる万人向きの味と言える。仕様としては、つけ汁に向くようにつくられているものが多く、希釈のしかたでかけ汁にも使えるとしているが、希釈率が高くなると甘味が立ってくるきらいがあるので微調整が必要である。かけ専用めんつゆや、うどんつゆなども開発されているので、かけ汁だけに利用するならこちらを使う方が間違いが少い。

業務用めんつゆは、メーカーで完全な原料配合管理がなされ、ロット毎に化学分析がされているので品質のバラツキは殆んどない。うすめ方さえ間違えなければ安定した味のつゆをいつでも手早くつくれるというのが大きなメリットである。

主要なメーカーでは沢山の消費者モニターを使って嗜好テストをくりかえし、その時々に合った味に調整しているので、きわ立って個性的なつゆは見当らないが、メーカー毎に比較するとそれぞれ特徴がある。どれを選ぶかは、第一に味であるが、同時に品質管理、商品管理のいき届いたしっかりしたメーカーのものであることが必要である。

水や湯でうすめるだけで誰でも手早くつゆがつくれるということは、人手不足の時代に大きなメリットではあるが、これは逆に、店の特徴、個性が出しにくいというデメリットでもある。メリットを生かし、デメリットをなくすにはやはり工夫が必要のように思われる。いわば便利な市販めんつゆを使いこなして独自の味づくりをする工夫である。

市販めんつゆを使いこなしている店の例として次のようなものがある。

一、市販めんつゆを稀釈する際、適量のしょうゆとみりんを加えて味にコクを出す。

一、市販めんつゆ二種類を混合して独自の味をつくる。

一、市販めんつゆを鰹節のだし汁で希釈する。

一、市販めんつゆに鯖節を入れて加熱し、こしてから冷やす。

市販めんつゆに少し手を加えて見事に自店の味につくり替えている例である。

つゆは市販めんつゆで充分、それよりも具材や薬味に時間とカネをかける方が良いという声もある。

要は、市販めんつゆも一素材と受けとめ、いかに自店のメニューに生かすかということであろう。

だしとかえしでじっくりつくり上げたつゆを誇る店もあり、市販めんつゆを上手に使いこなしてメニューのバラエティー化を進める店もあり、それぞれに客のニーズを的確につかみ伸びている。そばという食物には、それだけの幅の広さと顧客層の厚さがあると言えるだろう。

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