飲食材徹底研究「めんつゆ」 単純だがノレンの味、すすむ“高品質化”

1992.05.18 4号 24面

そば味噌と板わさで、あつめの燗を一本飲んでいると、せいろが上ってくる。ほのかなそば粉の香りと、コクのあるつゆ。薬味は葱を丁寧にきざんだものに、わさびは勿論生。良い気分でそばを食べ終る頃合いを見計らって湯桶が来る。白く熱いそば湯で適宜に割って飲むつゆはまた格別である。

タイミング良くそば湯を出す店のつゆは確かにうまい。これは、うちのつけ汁は、そば湯で割っても味のバランスが崩れるようなことはありませんよ、という自負のあらわれであり、店主の心意気である。

いかにも江戸好みの小粋な気分と味を満喫させてくれて一〇〇〇円なにがしというお勘定は、何といっても安い。薮、更科、砂場等々、老舗と呼ばれる店が、黄昏刻ともなれば、そば好きでいっぱいになるのは当然である。

そば湯で割ってもうまいつゆ。そば店のつゆづくりはここにあると言っても過言ではない。それぞれの店が工夫と研究を重ねたつゆづくりのノウハウを持っていて、それが、のれんの味として伝わり、のれん分けとして拡がっている。

この微妙な味のそばつゆも、原料をただせば至って単純、かつお節でとっただし汁と、しょうゆ、砂糖、みりんで調製した「かえし」を合わせたものである。それが店毎に違いそれぞれの麺の特徴とマッチして、そばという完成した食物を作り出しているのは、やはり江戸時代から続いた伝統のなせる技と言えるだろう。

かつお節が一般的に使われるようになったのは江戸時代、しょうゆも同じである。この二つの主原料が混然一体となり、砂糖、みりんの甘味と相俟ってつくられたのが、そばつゆである。ちなみに、かつお節を始めてつくったのは紀州の漁師ということであり、しょうゆの発祥もまた紀州である。紀州で生まれた二つの素材が、江戸の味の原点となっているのも因縁めいた話である。

かつお節には、本かつお、宗田がつおがあり、その他さば節、うるめいわし節などがそばつゆの原料として使われる。それぞれに独得の香りや味があり、店によって混合比はまちまちで、それぞれのつゆの特徴をつくり出している。

そばつゆのだし汁は、湯の中に削った節を入れ、およそ三〇分程炊き込み、節のエキスや味が充分出切ったところで火をとめる。日本料理の吸ものに使われる一番だしが、湯にたっぷりのかつお節を入れ火にかけて沸とうするところで火をとめるのとは大きな差がある。日本料理が主としてかつお節の持つ香りを珍重するのに対し、そばつゆの場合は、香りよりも味やコクを重視するため、だしのとり方も全く違ったものになっている。

しょうゆは、吟味して使われる。こいくちしょうゆが主だが、最近は色を淡めに仕上げるため、うすくちしょうゆを一割程度加えている店もある。勿論本醸造の特級しょうゆで、のれんを誇る老舗では特選しょうゆが使われている。砂糖は上白糖や三温糖、みりんは本みりんというところである。 (22面につづく)

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