飲食トレンド 紙鍋、今なぜか脚光、団体料理に威力
いよいよ冬本番、「鍋」の季節到来となるが、この鍋料理には何といってもアイデアが求められる。バラエティー豊かな鍋ものがあふれているが、今年のはやりは何か‐‐。“ポストもつ鍋”のメニュー化が注目されるなか、具材の目新しさも底をつき、それではいっそのこと鍋自体を変えてしまえば、との発想も出る。そこで注目されるのが「紙鍋」。紙という意外性はもとより、その利便性が脚光を浴び始めている。ブームを引き起こしそうな気配だ。
この紙鍋(紙やき料理ともいう)、かつては料亭、割烹でしかお目にかかれない高級料理として一部のファンに支えられてきたのが、使用する和紙が製品化され、大量生産されることから安価で容易に入手できるようになり、大衆的なメニューに採用されだしている。「なんで燃えないの?」という目新しさは料理を演出し客を喜ばせ、その使い勝手の良さが飲食店から歓迎されている。
和紙は使い捨てのワンウエー方式なので常に清潔さが保たれ、洗う手間も省ける。当然洗いにかかる水道の省エネ化も図れる。鍋のかわりに紙なので保管するスペースもいらない。なんと紙鍋は一石四鳥の付加価値を持つというわけだ。
「旅館やホテルからの発注が増えてます」と語るのは、業務用食器を扱う㈱赤鳥居商品課長の三浦氏。とくに紙鍋は団体料理に威力を発揮するようで、仲居さんにも評判が良いとのこと。いうまでもなく、こうした団体料理では個々に一つの鍋が配置されるわけだが、「紙鍋だと具材が少なく済む」という紙販売会社の説もあり、原材料費削減も図れるという。
この特殊和紙を製造するリンテック㈱加工材営業部の佐藤氏によると「バブル後もこの特殊和紙は他の紙製品に比べ、売上げは順調」と、さらなる大衆化への可能性を示唆する。「今後は土鍋から紙鍋が主流になるのでは」と三浦氏も期待している。
この紙鍋、安価なパーティーに出される紙トレーと一緒との見方もあるが、利便性だけでなく、目新しさを求める消費者のニーズに見事応えた商品開発といえそうだ。
「これだけ外食メニューがはん乱すると、味の魅力だけで集客は望めない」と語るのは、この秋から紙鍋のFC展開を始めた「紙おん倶楽部」代表の倉本氏。同店では三〇年の伝統を誇るたれを看板に、鍋料理を扱って来たが、リピート客をつかむためにはまず店に入ってもらうことが先決、と判断。紙鍋の目新しさを活用した。
同店のメーンメニューは、独自のたれをベースとしたラム肉の紙鍋と、鳥がらをベースにした魚介類の紙やきの二種類。煮つめないよう(煮つめると燃える恐れがある)白菜、モヤシなど水分の多い野菜をふんだんに使うのがコツとか。紙鍋としては珍しい五〇〇〇円~一万円で大衆的な食べ・飲み放題のコースメニューを提供している。
「やはり紙鍋だけでは」と語る市ヶ谷店店長の島根氏の言葉通り、一品料理も中華を中心に豊富で、常連客をつかむのも納得。
「よくお客に鍋の仕掛けや土鍋との違いを尋ねられます」とは、神田店女将の早坂さん。こうした客とのコミュニケーションが店の活気につながっているようだ。
だが、紙鍋も一時の珍しさなのでは、との問いに「紙鍋はあくまでも料理の演出。味わってもらう料理をこれからもメニュー化して行くのが今後の課題」と倉本氏。同店は現在、直営二店舗のほか三店舗のFCが進められているが、目標とする一〇店舗展開はそう遠くはないようだ。
味へのこだわりから紙鍋をいまに伝えるのは、大阪・北新地の老舗「露月」。同店は昭和2年の創業で紙鍋の元祖といわれる。紙おん倶楽部もここからヒントを得たという。露月のメーンは五五種類の旬の野菜と、タイ、ヒラメなど九種類の白身魚を使った紙鍋で一人一万四〇〇〇円のコースのみ。ここで使用する美濃和紙は、具からでるアクを吸うため、だしを最後までおいしく保てるのが特徴。これは野菜と白身魚をおいしく食べられるように創始者が考案したもの。
また、この鍋では炭火を使用しているが、それから発する遠赤外線が薄い和紙を伝わり、素材の持ち味を十分に生かすという。「外人客が特に驚かれますね」とは同店の田頭氏。“神秘の鍋日本”が外国人に好評を得ているが、これまでの高級イメージから大衆的な鍋のアイテムとして、東京で広がっていきそうだ。