施設内飲食店舗シリーズ:「シーバンス」(東京・芝浦)ビルの谷間の小公園
JR浜松町駅を南口に出る。そこからさらにペディストリアンデッキに出て田町方向に歩く。総ガラス張りの通廊になっているので、外の景色がよく見渡せる。通廊の外に旧芝離宮恩賜公園が見え、右側の頭上を東京モノレールがいく。通廊の中ほどをいくと、東京ガスにアプローチする出入り口で、この会社の社員は駅からストレートにオフィス内に入れるという図式だ。通廊の終端は地上四〇階、地下三階の東芝ビル。「シーバンス」(ア・モール)は、道一本を挟んで南隣に位置している。
このビルは地下二階、地上二四階建ての二棟で、この二棟のビルの間に地上四層のアトリウム棟が建つ。
平成3年2月のオープン。建設費(土地別)約七〇〇億円を投じて完工したもので、二棟のうち北側に位置するのをN館、南側のビルをS館と称しており、N館に兼松、東芝、松下電工、ダウケミカルなど、S館に清水建設の本社が入居している。
地域の開発面積八八〇〇坪、敷地面積八〇〇坪、建築面積三二〇〇坪で、建ぺい率四〇%、容積率五八〇%と空間の拡がりのある施設展開となっている。
この場所は再開発以前は倉庫街だったところで、NTTおよび清水建設が主力地権者として、計画用地の大半を所有していた。
そこを地域の地権者や地元町内会(芝浦一丁目)の協力を得て、清水、エヌ・ティ・ティ都市開発、大阪商船三井など六社の再開発事業として高層ビルを建設したもので、地域の活性化にも大きく貢献している。
もっとも、この地域には前記の東芝や東京ガス発祥の地として、八~一〇年前から本社ビルを建設しており、すでに“オフィス街”としての性格もあった。
清水はじめ、兼松、東芝が入居するシーバンスビルの建設によって、この性格は一層強まることになったわけだが、オフィスに加えては飲食、物販、サービスなどの商業施設も展開しているので、都市・商業施設としての機能も発揮している。
これら商業施設は、四層吹き抜けの「ア・モール」(アトリウム)に集約している。この施設空間は「光・水・緑」をテーマとしているだけに、明るく開放的で、自然のやすらぎを感じさせる。
天井も出入口の壁面もガラス張りであるので、外界との一体感があり、明るい光がさし込んでくる。床には小川をイメージして人工のせせらぎをレイアウト。その周辺には緑を植込み、ベンチを配している。ビルの谷間の公園という雰囲気もあり、来街者の心を和ませる。
「以前、この場所には外壁が石造りの四階建てビルがあったんですが、再開発によってそれ以上の高さのビルを建設するということで、建物は五階から上の階層を総ガラス張りの壁面にしています。
これは高層ビルの建設によって、地域住民の空間を奪うことになるという考えから、少しでも抵抗のない工夫をということでして、天気のいい日には青空がビルの壁面に投影されて、心理的にも負担のないビルデザインになっていると思います。
それともう一つ、地域への配慮としまして、周辺道路の拡幅に加え、モール内に生活道路が通る形で、それが公開用地になっているということで、地域住民の方々が自由に利用できる点も、このビル施設の大きな特色になっています」と話すのは、シーバンス中央管理事務所の工藤恒男所長。
再開発事業にありがちな商業主義の一辺倒から、地域に対する利便性と新たな街づくりに貢献しているということで、地元町内会からも大きな評価を得ている。
前記の建ぺい率四〇%は、それだけ広い空間を残しているということでもある。平成3年には環境庁から景観賞を授与された。光・水・緑をコンセプトとした施設づくりが評価されてのことだ。
ア・モール内の商業店舗は、物販・サービス分野は第一勧業銀行をはじめ、ニコマート、丸善(書店)、マホロバ(事務用品)、セガミ薬局、NTTトラベル、ZERO・IN(フィットネスクラブ)など七店。
飲食店舗は森永ラブ(ハンバーガーチェーン)、カフェ・エクシオール(イタリアンカフェ)、スターボード(バー&グルメレストラン)、デイ・ナイト(カフェテリア)、めん亭めん坊(手打ちうどん)、小吃坊(点心・中華料理)、藩(和食居酒屋)、海鮮問屋(刺身居酒屋)、大政(すし処)の九店舗で、和洋中レストランに加え、ファストフード、喫茶、居酒屋までの業態を揃えている。
これら飲食店舗の出店コンセプトは、オフィスサポートを基本としており、ビル従業員に対する利便性を第一義と考えている。
「浜松町の駅に近いといいましても、立地的にはハンディがありますから、地域外から集客するとなると難しい面もあるのです。ですから、基本的にはオフィスサポートという考えでして、ビル従業員の飲食ニーズに対応した出店形態であるわけです」(前出工藤所長)。
シーバンスのオフィス人口は約九〇〇〇人で、これにプラスして四〇〇〇人前後の来館者がある。すなわち、一万三〇〇〇人前後が昼間人口というわけだが、ア・モールへの来街はこのうちの約八〇〇〇人、うち二、三割が地元町内会など施設外からの来街者だという。
しかし、これら来街者も昼どきに集中する。物販にしろ飲食店舗にしろ、オフィスワーカーたちが昼休みに利用するということで、1時を過ぎると当然のことながら客が途絶えることになる。
「正直いいまして、地域外から客を呼び込めるような文化、レジャー施設があるわけではありませんので、わざわざシーバンスに遊びにくるという人は少ないわけです。
ですから、地域外にインパクトを与えるためには、施設全体としての販促やイベントプランが重要なポイントで、このため、月単位や年(シーズン)単位で、いろんな催事プランを展開しているのです」(工藤所長)。
施設の販促やイベントはテナント会があり、この会が主催する形で月一回のコンサート、年四回のア・モールフェアを実施している。ア・モールフェアは歌謡ショーやアトラクション、ワゴンセール、プレミアムキャンペーン、新メニュー紹介といった多彩なもので、これによって来街、来店動機を大きく喚起している。
しかし、飲食店舗はテナントミックスの考え方として、主としてチェーン店を誘致する営業策を採っているので、個店単位で知名度がある店が多く、それ自体が独自の集客力を発揮している。
「チェーン店の場合は販促力もあり、ストアブランドの偉力もあります。また、メニューや価格面もより一般的ですから、勤労者を対象とする営業展開の場合はよりフィットする面があるのです」(工藤所長)。
ア・モールの飲食店舗は、九店のうち六店舗がチェーン店だが、業態やメニュー構成によって多少利用形態が異なるものの、基本的には昼どきとアフター5(退社時)の二つの波での使われ方だ。年間売上げ一二億円。
◆小吃防
西洋フードサービスが経営する小吃坊は、昼一〇〇〇円、夜二〇〇〇円の客単価で、飲茶料理に人気がある。
とくに広東飲茶コース(七品)一五〇〇円、上海飲茶コース(七品)一八〇〇円はバラエティに富んでおり、夜の食事メニューとしても好評を得ている。
このほか、ライスセット二八〇円、点心セット三五〇円、サラダ・アイスウーロン四五〇円、シュウマイ五五〇円など四品目から一品をチョイスして、好きな料理とセットにする「セット料理」(一一〇〇~一九五〇円)も人気。
店頭ではシュウマイ、チマキ、水餃子など点心類(四〇〇~六五〇円)も販売している。客層は男性六割、女性四割。月商四〇万円。土曜日の会社の休みは地元客が主体になる。営業時間午前11時~午後10時、日祝休み。
◆海鮮問屋
海鮮問屋はサンリオ系列の刺身居酒屋チェーンで、都内を中心に二六店舗を出店している。この店の売りものは活魚料理で、チェーン店でありながら、他の居酒屋チェーンとは異なったグレードの高さをアピールしている。
昼間は海鮮丼一〇〇〇円、ねぎとろ丼、煮魚、焼魚、フライ定食各八〇〇円などを提供。夜は五〇〇〇円、六〇〇〇円、八〇〇〇円の宴会料理が売りものだ。
六〇〇〇円の宴会料理は、生ウニ、甘エビ、タラバガニ、生け石鯛姿造り、生け伊勢エビ(アワビ)、魚(貝)刺身、海藻サラダ、煮魚、大海老塩焼きといったリッチなもので価格的にも割安感がある。
客層は六、七割が会社関係の接待利用で、一般サラリーマンの夜の利用は少ない。しかし、対象客は“ネクタイ族”で、場所柄地域外からの一般客は期待していないという。
「やはり、シーバンスなど地域の会社に勤める“ネクタイ族”が対象ですから、ガツガツすることもないわけです。質のいいものをリーズナブルな値段で提供する。それと、“マニュアルから入って、マニュアルから出る”、ゆとりのあるサービス。付加価値の提供によって、集客力を発揮していくということです」(鈴木俊二店長)。
客単価昼八〇〇~一〇〇〇円、夜五〇〇〇円前後といったところ。日商八〇~一〇〇万円(推計)。営業時間は昼午前11時30分~午後2時30分、夜午後4時~10時30分、土日、祝日は休み。