高度成長する惣菜・デリ 惣菜・デリに歩み寄る生鮮3品と加工食品
九三年は、中食マーケットの将来性に着目した食品企業、外食企業の参入が相次ぎ、業界・業態面では「内食VS中食VS外食」の攻めぎ合いが表面化した年であった。
一方、商品面では「生鮮品VS惣菜VS加工食品」という構図が量販店などで鮮明になっている。例えば、魚フライが売れれば鮮魚が売れない、揚げたてコロッケが売れれば冷凍コロッケが売れないなどのケースだ。が、一方で両品が共存、連動することで新たな相乗効果を生んでいるケースも見られる。
中食が内食、外食を侵食していったのとは逆に、商品レベルでは生鮮品、加工食品が限りなく惣菜・デリに歩み寄るという現象が顕著となってきた。
精肉、鮮魚、青果の生鮮三品は、何らかの手を施さなければメニューにはならない素材型商品である。とれたての新鮮なものを食べたいという消費者の普遍的ニーズは、生鮮三品でしか対応できない。しかし、消費者の食生活の多様化と主婦の調理省力化志向が進む中で、素材型商品では、顧客満足を得られない領域がある。そこで、必然的に「生鮮品の惣菜化」が進むわけだ。
生鮮品の加工度を上げて、家庭のキッチンでちょっと手を加えれば食べられる状態まで下処理、加工する。精肉はミンチからミートデリへ、鮮魚は刺身からオードブルへ、野菜はカット野菜からサラダへ、果物はカットフルーツからデザートへ、という具合に一次加工品を超えて限りなく惣菜・デリへと近づいている。惣菜・デリが第四の生鮮品と位置付けられるゆえんがここにある。
量販店のトータルマーチャンダイジングにおける競合とは逆に、精肉小売店、鮮魚小売店では、生鮮品と惣菜・デリの共存、連動に成功している例もあり、こうした独立店では単に関連販売ではなく、消費者ニーズに即したマーチャンダイジングを強化する方向にある。
生鮮品の残り物処理のレベルではなく、生鮮品としても十分に販売できるだけの新鮮かつ良質な素材を使ったフレッシュ惣菜を開発し、生鮮品と惣菜・デリの二本柱で、今日の消費者ニーズに対応しようというものだ。
おいしい惣菜は何より素材の鮮度に頼るところが大きい。新鮮かつ良質な素材の仕入れの面から言えば、精肉小売店や鮮魚小売店は一般惣菜店に比べ優位な立場にある。この強味を生かした形で、生鮮品と惣菜の新業態店が全国各地に登場している。
一つには、水産物卸・小売を主業容とする中島水産㈱のラッピングずしの展開だ。
鮮魚売場にバイキングスタイルの江戸前すしコーナーを併設、主婦層に人気を博している。
この人気の秘密は鮮魚売場に隣接した場所であることが、すしネタのフレッシュ感にうまくつながっている点だ。それは、現に売場に陳列された新鮮な刺身が、そのまますしに使われているのだから当然のことである。また、一個ずつ手軽に選べる楽しさが、従来の鮮魚売場にはなかった新しい魅力となり、消費者の興味をそそる大きな演出効果を生んでいる。
フレッシュ感のイメージ統一を図りながら、消費者の高鮮度志向・本物志向と調理省力化志向の一見、相反する二つのニーズをうまく取り込むことに成功し、売上げアップとなった。
もう一つ紹介すると、高級ミート・無農薬野菜と惣菜・デリを組み合わせた「麻布や」(食肉製造・卸の㈱共和食品と伊藤忠商事㈱の共同出資による㈱シーケーフーズが運営)である。
岩手の高級和牛の前沢牛や鹿児島産の黒豚、庭先飼いされた抗生物質未使用の赤鳥などの畜肉類と無農薬の野菜・果物類など、自然派志向に対応したこだわりのある生鮮品と、これらの畜肉、野菜をふんだんに使った各種デリが特徴である。
同社の場合も、前例の中島水産と同様、生鮮品と惣菜・デリのフレッシュ感のイメージ統一を武器に、両品の共存、連動に成功した事例と言えよう。
一方、「加工食品の惣菜化」も顕著な傾向だ。その代表分野が冷凍食品である。本来の簡便性、保存性の優位点に加えて、目覚ましい冷凍加工技術の進展により、従来の「手抜き食品」のイメージ払拭に成功。また、弁当のおかず向けのコロッケ、鳥の唐揚げなどの揚げ物類一辺倒から、おにぎり、ピラフなどの米飯類、肉じゃが、筑前煮などの和惣菜、ギョーザ、シウマイなどの中華惣菜の冷凍食品化や、個食ニーズ、中間食ニーズに対応した、たこ焼き、焼きそばなどの屋台系スナック冷食の開発などバラエティー豊かだ。
食品メーカー各社では、「できたての惣菜のおいしさをいつでも再現できる加工食品」を開発コンセプトに、冷凍食品、レトルト食品などの分野で積極的な新製品投入を続けている。
加工食品は消費者の多様な食ニーズに対して、惣菜では満たされない保存性、簡便性の点での補完商品という位置付けから、品質の向上、値ごろ感の実現によってかなりランクアップしている。逆に、「間に合わせ」レベルでの惣菜・デリとの比較であれば、十分上回るだけの商品力を持つほどになっていると言えよう。
以上のように、「生鮮品と惣菜」「加工食品と惣菜」は、境界線が次第に消えつつある。こうした現状において、家庭内外食志向拡大の順風にある惣菜・デリではあるが、「作りたて・できたて」のコンセプトだけでは、優位点にはならない状況が来ている。厳選素材使用や保存料ではなく天然だし使用など、総合的なクオリティーアップが、今年の惣菜・デリに科せられた命題と言えよう。