地域ルポ 駒沢大学(東急新玉川線) 飲食街形成に立ち遅れ、地元の協力がカギ

1994.03.21 48号 6面

東急新玉川線駒沢大学は、文字どおりに近接地に同大学(学生数一万四〇〇〇人)が立地しており、朝夕には若者で賑わう街だ。駅の乗降者数は一日平均六万一〇〇〇人で、沿線では二子玉川園、三軒茶屋に次いで多い乗降者数だ。

地下ホームから地上に出れば、そこは国道二四六号線で、その上は首都高速三号線が東西に走る。二四六にクロスして南北を貫くのが自由通りだ。

この通りは真中(まなか)商店街と称しているが、商店数は少なく、三軒茶屋の世田谷通りや茶沢通りに比べれば、地味でインパクトに乏しいという印象を受ける。

しかし、この通りは住宅街を貫いているので、セブンイレブンやファミリーマート、マルエツなどの大手流通チェーンの出店がみられる。

駅の案内表示には東口、駒沢公園口とあるが、公園口に出れば、そこは国道二四六と自由通りがクロスする交差点で、車の往来が激しいところだ。

地下からの上がり口は八階建てビルの一階部分になっており、その地下フロアにはマクドナルドが出店している。

平成2年10月のオープンで、店舗面積約七〇坪、客席数八四、駒大の学生や地域の若者をターゲットにしての出店だ。

このビルは交差点の角地に建っており、東側は自由通りに面している。この通りの対向面の角地にはビルの一階に紳士服の青山が出店している。

通りを南方向に歩けば、左手に量販店のマルエツ、右手に棟続きの小さな商店が五、六店並んでいる。マルエツの右隣はビル建設用地で、工事途中で計画が中断した形になっている。

ビル建設といえば、後述するが、前記の棟続きの商店および周辺をスクラップ&ビルドして、地域の再開発計画も検討されており、近い将来には複合都市ビルが建つ見通しだ。

自由通りの終端は駒沢公園を経て東横線の自由ケ丘になるが、この通りの駒沢大駅周辺の商業ゾーンはマルエツあたりまでで、この集積は極めて小さい。

このため、地域住民の便益のためにも、新たな商業集積を可能にする地域の活性化が求められてきているわけだ。

交差点を越えた北側は若林および代田方面に通じるが、交差点から一〇〇mほどには小さな商店が点在する。

このエリアはいわば真中商店街のメーンストリートという位置づけになるわけだが、交差点側からみて右手にファミリーマート、セブンイレブンといったコンビニがあるくらいで、目立った店舗はなく、前述のとおり、極めて地味で活気に乏しい街並を呈している。

大手飲食店舗では交差点の左側角地に持ち帰りすしのデリカ、きょーたる、その西隣に居酒屋チェーンの養老の瀧が出店するのみで、この分野の商業集積も数えるほどでしかない。

チェーンといえば、前記のマクドナルドの前面の歩道を西方向に歩けば、交差点から四、五〇mのところに牛丼チェーンの松屋、〓野家が一四、五mほどの距離をおいて出店している。

松屋は平成元年7月のオープンで、店舗面積約八坪、客席一四、〓野家は今年2月に出店(店舗面積約一〇坪、客席数一八)したばかりのニューフェースで、松屋にビッグチェーンが戦いを挑んだという感じだ。

チェーン店ではもう一店、松屋の手前に立食いの富士そばが出店しているが、消費者に知られた飲食店舗といえば、これくらいで、トータル的にいえば新玉線駒沢大の飲食ビジネスはさびしいという印象を強くする。

自由通りのマルエツの前面地域の再開発プランは、世田谷区都市整備部で検討されているものだ。

まだ確定はしていないが、二一世紀に向かっての街づくりとして、地元の有力者たちの要望も大きい。

行政地番でいえば、駒沢一丁目四番地エリアで、計画面積約五四〇坪の再開発事業で、区の将来構想に沿って、すでにいくつかの案が出されてきている。

基本的には地権者、借地人が共同で複合都市ビルを建設するというもので、地域の活性化を目的とした再開発事業だ。

この一つの案は、地上六階、地下一階建てのビル(仮称/駒沢共同ビル)を建設し、ここに住宅、オフィス、店舗、駐車場を集積するというものだ。

この地域は住居および近隣商業地域で、基準建ペイ率は住居六〇%、近隣商業八〇%、同容積率が住居二〇〇%、近隣商業三〇〇%という土地用途にある。

住居地域でもあるので大規模な施設は建てられないが、しかし、このビル計画によって地域の活性化に大きくプラスすることは確かなことだ。

一方、ビル計画に伴って自由通りの拡幅も検討されており、これによって交通動線と歩行者空間を分離し、来街者の利便性を大きく高めていく考えだ。

「駅周辺の商業ゾーンには回遊性も、核となる施設もありませんので、地域外からの来街者は望めない状態です。消費者は隣りの駅の三軒茶屋や渋谷に行ってしまうわけです。ですから、地域の活性化と街への来街動機を大きく喚起する意味で、新たな都市施設とか商業施設が必要だと思うんですが、土地がらみともなりますと、いろいろと利害関係があり再開発計画はすぐには実現しないという状況で、大変に残念なことだと思っています」と話すのは地元商店街の有力者。

真中商店街は国道二四六沿いも含まれており、この商店数は約一一〇店だが、この数はむしろ減少傾向にあるという。駅の乗降者数も同様で毎年数%ずつ減ってきている。

街への来街者が少なくなれば、インパクトがあり、魅力的な施設でない限り、経営が成り立たなくなる。地域の活性化はこの意味でも重要な課題だ。

しかし、再開発事業は常に土地買収の問題がつきまとう。地権者や借地人の協力が得られなくては、計画も構想も絵に描いたモチに終わる。

前記の再開発計画地には九人の地主および借地人が存在するが、すでに大多数の同意を得ている。だが、全員の賛同が得られなくては計画は前進しない。

世田谷区の再開発事業では昭和57年に制定した「街づくり条例」によって、同62年に「新基本計画」が策定され、下北沢をはじめ、三軒茶屋、用賀、二子玉川、千歳烏山、成城、組師谷大蔵、等々力、経堂、奥沢などが地域の核としての位置づけにある。

しかし、駒沢はこの新基本計画からは漏れている。今年秋に予定されている「新・新基本計画」では、再開発地域として指定される見通しだが、地域の協力抜きではプロジェクトは成立しないということだ。

「地元から一致して強い要望が出ませんと、街づくりは手がつけられません。最終的には土地の提供ということになるわけですから、ここの問題が解決しなくては計画の実現は難しくなるわけです」(世田谷区都市計画課)。

駒沢一丁目地区の用地問題については、大地主の秋山光男氏の存在が大きいという。秋山氏がビル建設に同意を示してくれれば、地域活性化は実現する。地域関係者の願いは熱いのだが、計画は未確定のままだ。

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