バラエティ豊かな地方料理 スペイン料理

1992.06.01 5号 1面

スペイン・地中海と大西洋の間に突きでた大きな半島。イベルア半島は古代から数多くの異民族、異文化、異宗教の接触点で、この歴史的背景がスペインの料理文化に色濃く反映して、その様相を複雑なものにしている。スペイン料理の特色は、スペイン料理という一般的なものはなく、大雑把に七つの地方の郷土料理に分けられるが料理のベースはオリーゴオイルとにんにく、トマト、サフラン。これに各地方特産の材料の持ち味、伝統が加わって、バラエティ豊かな地方料理を形成している。

スペイン料理を大まかに分けると南部が魚のフリッターに代表される揚げ物、中央部が仔豚の丸焼きで名高い肉類の焼きもの。北部は、ソースを主体としたシチュー。北東部が魚介類。東部が米料理といえる。

全国的につくられている料理の筆頭はオリャといわれる土鍋を使ってつくる煮込み料理。その原型はオリャ・ポドリーダで、子牛肉、鶏肉、チョリソ類などを煮込んだもの。この料理は、地方によって様々な名をもつ。中央部メセダではコシード、カタルーニャではエスクラデジャ・イ・カルン・ドジャ、ガリシアではポーテ・カリエゴなどと呼ばれる。

トルティリャといわれるオムレツも全国的である。

スペインは、今年バルセロナ・オリンピック、セビリア万博、コロンブス新大陸「到着」五〇〇年祭、EC統合と四大イベントが目白押しであるがこの四大イベントを契機にスペインは大きく変ろうとしている。ことにオリンピック誘致が決まって以来、土地の騰貴が著しく、また、EC統合をターゲットにヨーロッパや日本企業や大店舗が流入、スペインの大都会は急速にヨーロッパ化されつつありスペインの人々の伝統的習慣、さらには食文化まで洗い流してしまう勢いだ。

今日のスペインの食文化は、さまざまな異文明の影響下で成り立っている。スペインにオリーブ、ぶどうをもたらしたのはギリシャ人で、米、砂糖、オレンジはイスラム人が持ち込んだ。今日のスペインの食型態の土台を築いたのはローマ人である。スペイン人の日常欠かすことができない主要食品として、パン、米、豚肉、トマト、干ダラ、ワインがあり、また、調理にはすべてオリーブ油が用いられるが、これらのうちパンの材料の小麦、豚、オリーブ油、ワインはローマ人の遺産である。

ガータ岬から地中海に沿って北東にのびるスペインの東海岸地帯は、いろいろな呼び方をされている。「レバンテ」という昔からの呼び名は、スペイン語で「昇る」という意味。つまり、東方の太陽の昇る所を表わしている。ムルシア、アリカンテ、バレンシア、カステリョン・デ・ラ・プラナの四県からなるこの地方一帯を別名「米の国」と呼んでいる。米はイスラム人によってスペインにもたらされたが、レバンテのなかでもとりわけ水の豊富なバレンシアに根を下ろした。

スペインには数多くの米料理があるが、そのほとんどがバレンシアに由来している。現在、バレンシアには四〇〇種類以上の米料理があるといわれている。米料理の中で世界的に知られ、スペインを代表する料理として有名なのがパエリャである。この料理は、素朴で質素な料理として一五世紀から有名であったが現在の料理法になったのは一九世紀中葉といわれている。パエリャの名前はバエジェラという鍋(両側に取手のついた丸い鉄製の浅鍋)からつけられたもので今日でもバレンシアの中央市場には、バエジェラがたくさん吊るされている。パエリャ料理はバエジェラという鍋でロブスター、小えび、はまぐり、やりいか、貽貝など豊富な魚介類。チョリソ・ソーセージ、鶏肉、うさぎの肉、さやいんげん、グリーンピース、赤ピーマンなどさまざまな材料を使って調理するがオリーブ油と米とサフランだけは必ず使う。このほかトネリコの木を使ってローストしたうなぎ料理が有名。これはにんにく、オリーブオイル、唐辛子のソースで調味された料理。

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