総合外食企業を目指す居酒屋、家族団らんがキーワード
居酒屋は交際費などの臨時出費の上に成り立つ業態ではない。不況だからと、極端な売上げの変化もない。むしろ“飲”と“食”の目的を同時に満たしたい客層が増えるため、新規集客、事業拡大の絶好のチャンスといえる。だが、バブル時に他の専門店で、食やアメニティーに馴れている客層をどうやって満足させるのか。“酒”だけに依存しない店舗戦略がカギとなる。すでに業界の雄「養老乃瀧」では、赤ちょうちんのイメージ払拭のためカジュアル化路線を推進、店舗のリニューアルに乗り出している。食、空間、プライス、さまざまな策を講じて集客を図る各社の動向を追って見た。
不況の時こそチャンス。伸び悩む他外食をしり目に「大庄」「天狗」は意欲的に業態開発を進めている。
大庄では一昨年から新業態を活発化させ年間四〇~五〇店を出店している。「洋食は一過性だが日本人の根底にはやはり和食がある。需要は落ちない」(大内晴夫企画開発本部長)とし、“家族団らん”をキーワードに、居酒屋ではなく大衆割烹路線を歩む方針だ。いずれはFRとも競合すると予測する。
同社の新業態には、そんな家族層を重んじる姿勢が息づいている。カラオケボックス事業の積極化がその一つだ。同社のやる気茶屋チェーンで展開していたカラオケボックス「ハイハート」と同じ複合店戦略を、直営の庄やチェーンでも踏襲。カラオケボックス「うたうんだ村」の展開を始めた。
新規出店のみならず既存店にも積極的に取り入れて、アミューズメント性を高めて行く意向だ。
テナントを契約する際に、二フロア一括だと値下げ交渉も楽なことから効率的な業態開発ともいえる。“日本の台所”を標榜する同社は949(クシキュー)チェーンでも“居酒屋”を“居食屋”に変えたり、その姿を総合外食企業にすべく着実に脱皮を始めている。タイへの海外出店も決定。8月には株式公開と、大庄の勢いはとどまる所を知らない。
テンアライドが手掛ける「天狗」はランチメニューを全店に導入する。「すき焼きセット(四八〇円)白飯、味噌汁、おしんこ、赤ワイン付」だ。絞り込みの同社らしくメニューはこの一品のみ。アンテナ展開する八重洲店では行列が絶えない。
DS戦略との問いに、同社の飯田保会長は「今までの日本の飲食店が高過ぎただけ」と至って冷静。「食材の内外価格差が解消すれば、もっと喜ばれるメニューができるのに」と今後の可能性を示唆する。同社は今年度ロードサイド店を五店程出店する予定だが、それも先を見越した現れか。
内外価格差解消と同様な見解を大庄の平辰社長は「今後、外食人口が増えて、米国並みに価格は低下する。居酒屋業態の客単価も一五〇〇円時代が来る」と語っている。
早く、安く、おいしい料理をモットーにする両社の事業拡大は、業界をレストラン化へ牽引する企業として注目に値する。
飲食店を選ぶ条件は、食べて飲めて遊べる店‐‐。サントリーがヤング層に行ったアンケートで、この回答がほとんどを占めた。一軒ですべての欲求を満たせる店。しかも小遣いの範囲で。そんなコンセプトに基づき、同社が打ち出した答えは、多少客単価が上がっても二軒分楽しめる「リビング・バー」だ。同店のメニューは、世界の家庭料理を月ごとに替える戦略で(グランドメニューもある)、店内はソファー、堀ごたつなど“リビング”にふさわしい多彩な空間を擁して、若者の多様なニーズに対応している。
また時間帯によって、照明が変化、店員の制服も替わるなどビジュアル感覚もあふれている。そして同店の名物水割ウイスキー「デカンタ(一六五〇円)五杯分」だ。これにはサントリーがかかえるウイスキー低迷の改善策という大きなテーマが隠されている。今後、団塊ジュニア、つまりアルコールの入口に立った新規ユーザーをいかに捉えるか。新しいウイスキーの飲み方を人気店舗でPRして消費拡大をにらんでいるのだ。
「これからの居酒屋は、原価の安いカクテルドリンクを普及させ、利ザヤでコストパフォーマンスできる料理、店舗設計を施す時代」と吉本隆産代表は語る。
港区南青山のアンテナ店では連日予約が殺到。同社はリビング・バーを全国主要都市で今年中に二〇店舗出店する予定。ジガーバー、白札屋に代わる同社の新基軸として育てる方針だ。
同様なコンセプトで脚光を浴びているのが、アートライフの手掛ける「ココロコ」だ。新宿区歌舞伎町にこのほどオープン。本格的なカリブ海料理と生演奏が楽しめる。内装は南の島を思わせる樹木であふれ、そのテーマ性、エンターテイメント性が話題を呼んでいる。客の滞在時間が長くなるため回転率は低いが、高めの客単価でカバーする。
いずれの店舗にも共通するキーワードは「値段にそぐわない高級感」だ。“酒”に依存しない店舗戦略が重要ということだ。客単価四〇〇〇円弱と高めにもかかわらず、客足が絶えない事実がそれを証明している。