トップインタビュー:花正代表取締役社長・小野博氏

1994.06.06 53号 3面

‐‐ハナマサといえば、牛肉の安売りや焼肉の一〇〇〇円バイキング、また、最近ではシェラスコ料理の店舗展開、中国や東南アジアでの焼肉レストランのチェーン化など、何かと話題が多いんですが、今度はこの6月から輸入ワインの自社消費と外販を本格化するということで、関係業界の注目を大きく集めています。どういう狙いですか。

小野 ワインというのは欧米では肉料理とは一体化した飲みものですが、日本では肉もワインもまだまだ消費量は小さく、これからの分野だと考えています。

大まかにいいますと、日本人の一人あたりの肉の消費量は年間六・五kg、ワインは一lくらいで、これは欧米に比べそれぞれ一〇分の一のボリュームです。

生活の洋風化や外食ニーズの高まりで、少しずつ消費量は伸びてきていますが、市場全体のボリュームとしてはまだまだです。

ご存知のように牛肉は昭和56年4月に自由化されて以来安く、しかも日本人のし好にもあった質のいい肉が出回るようになり、この結果、需要も順調に伸びてきています。

もっとも、長引く不況でステーキレストランなどでの価格の高いものは売れなくなってきていますけど、しかし、我田引水になりますが、私どもで展開しています“食べ放題”の焼肉バイキングとか、シェラスコ料理はどこの店も盛況で、店の運営形態や料理の提供方法、価格によっては、肉(料理)の消費は大きく伸びていくと確信しているのです。

‐‐御社は元来が肉のディスカウンターであるし、そこから出発して外食にも進出して、例の食べ放題の“一〇〇〇円バイキング”で業界に強いインパクトを与えたわけなんですが、やはり、“安売り”志向で肉とワインのマーケットを切り拓いていこうということでしょうか。

小野 いま外食業界をみますと、例のすかいらーくさんの「ガスト」に象徴されますように、低価格とか食べ放題とか、“安売り”が大きな流れになっていますが、私どもはこれを昭和52年に始めているのです。

ご存知の焼肉食べ放題“一〇〇〇円バイキング”がそうですが、これが大きく功を奏しまして、物販の“肉のハナマサ”のイメージに加え、外食分野におきましても、花正の焼肉、ステーキはボリュームがあって安いというイメージが広く浸透しているのです。

私は正直いって、みなさん何をいまさらジタバタしているのですかといいたいのです。

経済の成長でモノが売れたのであって、何も企業努力をしていない。私は肉に関していえば早くから自由化を叫び、自らの店で市価三割、五割“安売り”を実践してきたのです。消費者にいいものを安く提供する。一〇〇〇円バイキングのスタートもその意気込みであったのです。

ですから、私どもの企業精神は、現在でも常に消費者の立場に立って、いいものを安く提供していこうということでして、この精神に沿いまして、肉の小売りと外食ビジネスの展開を積極化しているのです。

‐‐いってみれば、物販、外食両面のディスカウンターであるし、プライスブレーカーということですね……。

小野 そうです。ワインの販売もこの精神で、これからの新しい事業として取り組んでいく考えであるのです。

‐‐この市場戦略はどう展開されるのですか。

小野 単純と思われるかも知れませんが、私は肉の消費が伸びればワインの需要も伸びる。ワインの消費が伸びれば肉のマーケットも拡大すると考えているのです。

そのためにはまず消費者が買いやすい価格を設定しなければなりません。日本のワインは余りにも高すぎます。テーブルワインが安くても一本三〇〇〇~四〇〇〇円ですから、これではワインを飲みたくても、手が出ないということになります。

私はこれを一本一〇〇〇円以下に、グラス売りであれば一杯二〇〇~三〇〇円くらいで売りたいと考えているのです。現に私の店ではそういう売り方をしておりまして、大変な好評を博しているのです。

‐‐ワインはもちろんアルコールであるわけですが、酒類販売の免許はどうされていますか。

小野 平成2年6月に輸入酒の卸売免許、小売免許については平成2年12月に雑酒、平成5年3月に全酒類の免許を取りまして、輸入から外販まで自社でトータルでの市場戦略が可能になったのです。

もちろん、自社の外食部門での消費もありますから、ことワインにつきましては、大手スーパーやディスカウンターにも負けないバイイング機能とマーケティング戦略が展開できるものと自負しています。

‐‐輸入先はどこですか。

小野 フランス、ドイツ、アメリカ(カリフォルニア)など四ヵ国八〇銘柄を取り揃えていますが、6月からはギリシャ、スペインのワインも販路に乗せていくことになっております。

取り引きはすべてメーカーと直接契約ですから、流通マージンがかかりません。ですから独自の価格政策が打ち出せるわけですが、商品は船便で6月に一五コンテナ、7月に二〇コンテナ入荷することになっています。

‐‐一コンテナあたりどのくらいのボトル数になりますか。

小野 一コンテナ一〇〇〇ケースで一万二〇〇〇本ですから、一五コンテナで一八万本。これを例えば、一〇〇〇店のレストランが月間あたり二〇〇本を消化すれば二〇万本。現在の外販ルート八〇〇店と自社の外食部門約二〇〇店だけでも十分にクリアできる数量です。

‐‐物販と外食両面の価格破壊、まさしく時代が花正に向いているということですね……。

小野 消費低迷で経済界全体が価格破壊の方向にあるわけですけども、これは本来の私どもの生き方です。社員の中にはライバルがあちこちに出てきて、花正の市場が侵かされると心配しますが、私は何も心配することはない、もっと至近距離に引きつけて撃破しろとハッパをかけています。そして、これが花正の上げ潮なんだといっているのです。

‐‐ありがとうございました。

(文責/しま・こうたつ)

花正は“肉のハナマサ”の企業イメージで、食肉(食品)店舗の出店と取り組むほか、焼肉バイキング、ステーキ、しゃぶしゃぶ、シェラスコ料理などのチェーン展開を積極化している。

物販、外食の両面作戦ということだが、この市場戦略は安売り、低価格志向が基本的な考えで、会社設立以来、独自の企業哲学を貫いてきている。

出店数は物販二九店、外食九四店で、外食については中国をはじめ、インドネシア、シンガポール、マレーシアでも出店を活発化しており、現在一八店舗を開設している。

国内では既存業態のチェーン展開に加え、ワインと肉料理の新業態を開発していく考えで、この一環として今年6月から輸入ワインの事業化も本格化する。

本社/東京都江戸川区平井六‐五四‐一▽資本金/一〇〇〇万円(グループ会社計一億六五〇〇万円)▽年商/四〇一億円(九三年度)

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