お店招待席:会席・しゃぶしゃぶ「魚がし太公望」

1994.06.20 54号 8面

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銀座八丁目の博品館の斜め前。高速道路下のショッピングゾーン「ギンザナイン」の地下一階。小さな飲食街だが、通りからは全く目立たない存在だ。この店自体も一番奥まった場所に位置しているので、正直いって人を呼ぶにはハンディがある。

しかし、料理(地酒)の質と価格、店の雰囲気で勝負。大手企業のビジネスマンや官公庁の役人を主体に、固定客一〇割近くをつかむという高収益の店だ。

この店は肉のハナマサの直営店で、平成4年10月にオープン。以前この場所はうなぎ料理の店だったが、立地のハンディと地域の同業他店との競合に負けて退店。その後をうけての出店だ。

店舗面積二三坪、客席数二二席と小じんまりした店だが、昨年7月に廊下をはさんで隣にあった直営のすしショップを移転させて、座敷席に衣替えし、“別館”として再スタートした。

店舗面積二〇坪、客席数二六席で、現在はこれを一体化させての営業だ。

店の売りものは会席コース「彩膳」(小鉢、八寸、お造り、焼き物、茶わん蒸し、御飯、味噌汁、香の物、水菓子、フルーツ)三八〇〇円、「舞膳」(同)四八〇〇円だが、これはこの価格帯としては通常の会席料理の一・五倍くらいのお値打ち品だという。

材料は築地の魚河岸から仕入れた新鮮なものだ。もう一つの売りものは、牛しゃぶ食べ放題コースで、これは牛ロースと野菜、うどんのお替わり自由、先付、スープセット、デザート付二三八〇円、カニと牛しゃぶ食べ放題コース三八〇〇円などだ。

食べ放題はすでに珍しくなく、客も慣れてしまったという感じだが、この店はハナマサのバイイング機能を経由しての食材確保だけに、いい素材のものを低価格で提供しており、客の人気は高い。

10割近くが固定客

料理はこのほかに、刺し身盛り合わせ、焼き物(二品)、煮物(四品)、サラダ類(二品)、珍味(三品)もあるが、品数はトータルで一五~二〇品前後と絞り込まれている。中心価格は四〇〇~七〇〇円。

「私の気分としてはいろんな料理を提供したいんですが、経営面で考えると、材料のムダが出ないようある程度絞り込んだ方がよい。つまり、この店の売りものは何かと、ストレートにハッキリさせた方がお客も迷うことがありませんから、かえっていい結果が出るんです」と話すのは料理人兼店長の諏訪春夫さん(40)。

しかし、メニューを絞り込んで固定化すれば、客に飽きられてしまうので、主力商品は月一回の割合で内容を入れ替えるし、単品メニューも半年ごとに見直しをおこなっている。

単に店本位の効率を考えているばかりではないのだ。問題はコストのかからない料理をどうおいしく作り、提供するかということだ。

「材料の質は落とせませんが、素材の組み合わせと料理技術で付加価値を出し、それによって価格的にも客が納得するリーズナブルな商品を提供するということです」(諏訪店長)

原材料コストは三〇%以下と低くおさえている。このため、店の収益力は大きい。もう一つ収益力を高めている理由に、地酒がある。

これは酔鯨(高知)、三井の寿(福岡)、〆張鶴(新潟)、磯自慢(静岡)などの地酒だが、これらの銘酒がよく出るからだ。一合五五〇~六五〇円。地酒も質を維持し、回転を高めるために常時五、六銘柄しかおいていない。

この売り方が客のハートをつかんでいるわけだ。酒は原価が安い。売れば売るほど利益になる。客単価一万円の会席料理のうち五割近くは地酒が占める。だから、たとえ料理の材料コストが上がっても、この面でコスト吸収ができるわけだ。

客単価昼八〇〇円、夜五〇〇〇円。客層は日本道路や日通、リクルート、ヤクルト、美スズ産業など大手企業の管理職をはじめ、地域の銀行や証券マン、大蔵省や郵政省の役人などで、“料亭”代わりの使われ方をしている。これら固定客が一〇割近く。

バブルがはじけて経費節減の折りで、この店はその代替えとしての内容を備えているということだ。月商平均五五〇~六〇〇万円前後。グロスの売上げはそう大きくはないが、場所のハンディからして上客をつかんでいるというのが大きな強味だ。

(しま・こうたつ)

・住所/東京都中央区銀座八‐五、ギンザナイン三号館地下一階

・電話/03・3571・5630

・営業時間/昼午前11時~午後2時、夜午後5時~10時、日曜日休み

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