トップインタビュー ロイヤル・稲田直太社長「おもてなしが基本」

1994.11.07 63号 4面

‐‐創業者にとって自分の会社は何よりかわいい。江頭会長から社長業を受け継ぐには勇気がいったのではありませんか。

稲田 私はレストランビジネスはトップの全人格が反映されるものだと思っています。ですからこのビジネスの本当の面白さはトップにならないとわからないと思っていましたので、ついに私自身の全人格を世に問えるチャンスを与えてもらったと感激しました。二七年間、会長と一緒に仕事をしていますので、“基本的な理念、本質はまさか踏み外さないだろう”と信頼されていると思います。

会長にはロイヤルの企業理念は一〇〇%継承しますが、時代の変化と共に、マネジメントの方法はいろいろ新しい手法を駆使させていただきたいと言っています。私には会長のようなカリスマ性はありませんので、組織として率いて行きます‐‐と。

‐‐九四年をロイヤル第二創業期としていますね。

稲田 ロイヤルの四三年間の歴史は江頭匡一社長というカリスマ性のある創業者が牽引する、いわゆるリーダーシップ型の経営でした。しかしロイヤルの業態も組織も大きくなりました。これまでの家庭的な共同経営から機能体経営へ、年功序列主義から実力主義に変えて、マネジメント力の強化を図りたいと思います。

‐‐外食はゼロ成長時代に入り、すかいらーくの芦野社長はFRすかいらーくの使命は終わったと脱FRを模索していますが、ロイヤルはどういう方向を目指しますか。

稲田 FRのロイヤルホストは全店三二〇店舗で昨年一年間に延べ六二〇〇万人を集客しました。日本の延べ人口の約半数を集めており、国民の生活には本当に便利で、まだまだ支持されていると自負しています。FR御三家といわれるすかいらーく、デニーズ、ロイヤルは過去五年間位、メニュー、サービス、接客態度など酷似していましたが、この一~二年はそれぞれの店が信じるところに傾斜しているので、あと二~三年したらどこの支持が多いか結果が出て来ると思います。「自分がこんな料理を作りたい。これを食べて欲しい」と“めし屋”に徹してダメなら、それで本望という開き直りもあります。

‐‐ロイヤルはレストラン業の王道を行くといわれますが、王道とは具体的にどういうことですか。

稲田 レストランビジネスはホスピタリティビジネスです。ある方はもともとレストランは味と価格でアトモスフィア(雰囲気)に関わる部分はおまけと切り捨てていましたが、私はこれに真っ向から対立します。低価格ではなく適性価格は追求しなくてはいけません。しかし、サービス、クリンネスをはしょってまで利益を出そうとは思いません。

QSCA(クオリティ、サービス、クレンリネス、アトモスフィア)ができて、初めてレストランと呼ばれます。おいしくて品質の良い料理を清潔な店内で、気持ちのいいサービスで提供する。ゆったりとくつろいでいただくことがレストランの本質です。ロイヤルはQSCAを基本にしたホスピタリティを追求します。二九〇〇人の社員中、一二〇〇人がコックというのも、ロイヤルならではです。

‐‐社長のホスピタリティー精神は会長直伝のものですか。

稲田 それもありますが、私は若い頃からアメリカを手本にしなくてはいけないということで勉強に行かせてもらっていました。七五~八五年のアメリカが混沌としていた時代も目のあたりに見ました。わが社が合弁事業を行っているマリオット社とシズラー社は運良く生き残りましたが、両社の共通するところはまず精神論ありきで、おもてなしの心、ホスピタリティーを一番大事にしているところなんです。身をもって教えていただきました。日本の場合、とかく技術論が先行する傾向にあります。

シズラー社と提携した時に、私はステーキ用の肉はポーションカットで店舗に納入したいとシズラーの会長に申し出ました。しかし答えはノーでした。「ステーキの店だから、店舗で一枚一枚カットすることで肉に対する愛情が湧き、肉に本当に気を使うぞ」ということでした。それでブロックを店舗でカットすることになったのですが、誰が一番喜んだかというと料理人でした。

これがホスピタリティーなんですね。おかげで肉の保管や焼き方などグレードアップし、味は格段に良くなりました。

‐‐すごい日本人的なことをアメリカで学びましたね。最後に経営者として中・長期の展望をお聞かせ下さい。

稲田 今のように不確定な時代は展望や仮説は立てにくいんですが、あえていうと、経済は来年後半から上向くと予想しています。リストラクチャリングが来年の暮れまで続きます。平成8年にある程度景気が回復しているということを前提に、一株あたりの利益を現在の二〇円から四倍強の八五円にしたいと思っています。

利益減を店舗数に求めるよりも、赤字を出している店の改善、リストラという手も打てる。経常益七〇億円は十分射程距離と考えています。ロイヤルは五〇〇店で終了としているので、次に対応する新しい業態の確立にも注力していきます。

4月1日に就任して半年、社長業の感想は「責任の重さと仕事の重さに比べて給料が合わない」こととか。しかし、二九〇〇人の社員を全国一七会場に分けて所信表明に歩いた手ごたえは十分あったようだ。組織の人として二一世紀にロイヤルをどう導くか、今後に注目される。慶応義塾大学卒業、東京都出身、四八歳。

(文責・福島)

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