地域ルポ 品川港南口(東京・港区) 50 店の居酒屋、大手チェーンが目白押し
JR品川駅。一日平均の乗降客数は四五万人。JR東日本(東京)管内では六番目に人の流れの大きい駅だ。品川といえば、江戸時代は日本橋から京に向かう第一の宿場町だったところだが、駅前にはその面影はない。しかし、北品川に旧東海道が残されており、往時をしのぶことができる。品川は東海道本線を始め、山手線、京浜東北線、横須賀・総武線など五線が乗り入れるが、西暦二〇〇〇年の初頭には新幹線や埼京線の開業も計画されているので、東京、上野駅に次ぐ都内でも有数の交通拠点となる見通しだ。また、品川はホテルやオフィスビルの多い西口(高輪口)と海側の東口(港南口)の二つに分かれるが、未利用地が多く残る東口エリアでは、オフィス、文化、商業施設を集積する超高層ビル「品川インターシティ」の建設計画も進捗しており、地域の活性化が大きく期待されている。このため、これら施設建設に触発されて飲食店舗の出店も活発化、とくに大手居酒屋チェーンの出店が目白押ししている。
品川は西口の第一京浜国道側が街としての発展をみている。このエリアにはホテルパシフィックをはじめ、品川プリンスホテル、高輪プリンス、新高輪プリンスホテル、東武ホテルなどのホテル群や京急デパート、ウイング高輪といった商業およびオフィス施設が展開する。
しかし、西口エリアは古くからの住宅街であること、また、第一京浜が地域を分断する形で南北を貫いているので、駅前は面としての拡がりが望めない立地特性にある。
この点、駅東側の港南口は旧国鉄貨物ヤードの跡地など広大な遊休地があり、新たな街づくりが可能だ。
現に港南口の南側(港南二丁目)では、興和品川開発(株)、みなと都市開発(株)、(株)大林組の三社が事業主体となって今年8月から“創業と交流の園都(まち)”をテーマに「品川インターシティ」の建設に着手している。
敷地面積約一万一〇〇〇坪、建築面積六〇〇〇坪に地上三二階(地上高一四〇m、タワー三棟)、地下三階の超高層ビルを建設するという計画で、ここにオフィス、商業、文化施設などを集積する。
完成は三年後の平成10年11月末の予定で、これら大型の都市再開発事業によって、品川港南口地区は大きく様変わりする。
品川駅港南口は高輪口に比べれば、はるかに“格落ち”の感じがする場所で、少なくとも若い女性層がショッピング、飲食に来街するといった華やかさに欠けている。
このエリアは東京港と一体化する海運関係の事業所や倉庫などが散在するところで、元来が商業活動の乏しい地域だといえる。
しかし、ここ一〇年ほど前から事情が変わってきている。NTTをはじめ、文具のコクヨ、日新ビルといった大手資本のオフィスビルが進出してきたのに伴って、駅前に居酒屋、喫茶など飲食店舗の集積も大きく進んできているからだ。
港南口は老朽化した駅舎で、改札口前のスペースも狭い。だが、人の流れは著しく、とくに朝夕のラッシュはすさまじい。
駅のデータでも五、六割が港南口を利用しているという結果をみせている(JR品川駅)。現在はまた劇団四季が明年2月末までのロングランで、「キャッツ」を公演しているので、観劇者の来街も多く、開演時の夕刻には通勤者の退社ラッシュと重なって、都心のターミナル並みの混雑ぶりをみせている。
港南口には前面を南に向かって片道三車線道路が走る。しかし、これも旧海岸通りとクロスする「港南二丁目」(交差点)あたりまで全長二〇〇mほどが“駅前通り”という趣で、オフィスビルや商業施設はこのエリア内に集積する。
改札口前面からみて左手に大型のビルが三棟建つ。NTT東京支社法人営業部が入居。オフィス人口七~八〇〇〇人を擁する都内でも有数の大型ビルだ。NTTの東隣、ソニーの芝浦テクノロジーセンター、コクヨが目に入る。さらにコクヨの東側、駅前通りに面して港湾業の日新、その先、港南二丁目交差点の南角に、昭和40年竣工の東京中日新聞社社屋が存在する。
旧海岸通り東側にも日産自動車の東京支社、荏原、フィリップスといったオフィスビル、さらには、東京中日新聞社から二〇〇mほど南寄りに、東京中央卸売食肉市場が展開する。
これら施設が港南口エリアの主な都市ビルだが、地域の商業ゾーンは駅近接地の狭隘な空間にとどまっている。
港南口の商業ゾーンは駅改札を軸にすれば、半径一〇〇~一五〇m内に集約される。
商業ゾーンといっても、この地区の商業施設は物販店やサービスショップは少なく、ほとんどが地域のサラリーマン相手の居酒屋、パブ、スナック、喫茶、すし、中華、焼き肉レストランといった業態。
これらの業態にあって、居酒屋は大小あわせて四〇~五〇店前後はあり、夜はどこも満席といった盛況ぶり。
それにしても、この狭い範囲に居酒屋の多さには驚かされる。全体の七、八割が居酒屋といった趣だ。
「三〇年くらい前に東京中日新聞が来てから焼鳥屋とか食堂がぽつぽつ増えはじめたのですが、それ以前はこの地区は在日外国人や食肉関係者たちの“部落”であったようで、他の地区の人たちには敬遠されていた場所だったときいております」(居酒屋店主)。
昔の話だが、今は大手資本のオフィスビルや外食(居酒屋)チェーンの進出などにより、地域も大きく変身を遂げてきている。
居酒屋は地元の生業店が大半だが、大手チェーンとしては村さ来、天狗、やるき茶屋、白木屋、藩、それに昼夜二毛作経営のプロントなどが進出しており、地域の活性化に大きく寄与している。
港南口改札口を出ると、即右手(南側)に小さな飲食ビルや雑居ビルが建ち並んでおり、地域唯一の商業ゾーンを形成している。
改札口前面のロータリーに面して、プロントが出店している。昨年11月のオープンで、地元焼き肉レストランのオーナーが経営するFC店だ。
店舗面積二四・五坪、客席数は昼三六席、夜四八席。営業時間は朝7時から夜11時まで。一日平均一〇〇〇人の来客数だが、土・日は会社が休みになるので、平日の四、五割に落ち込む。
月商一〇〇〇万円以上。キャッツの公演もあって、目下のところ営業は順調だ。
プロントから五軒ほど東隣。居酒屋・パブ「赤ひげ」が目に入る。外装は和風造りだがビル一、二階での出店だ。一、二階各三〇坪で、客席数はあわせて一三〇席。
オープンして一五年になるが、大手居酒屋チェーンの進出で、若者層の利用は少なくなってきた。
客単価二五〇〇円前後の大衆居酒屋だが、ほとんどが中高年層の常連客だ。営業時間は平日午後4時~同11時、日・祭が午後3時~同10時。やはり土・日の客数は平日の三割に激減する。
「赤ひげ」の一軒左隣にも居酒屋がある。ビルの二階に地酒が看板の「五右衛門」、二階に大衆割烹「江戸一」の二店だ。
五右衛門は赤ひげと同じ経営で、一〇年前のオープン。江戸一も同じ頃の出店で地元資本の店だ。
江戸一の角を右に曲がると小さな商店街になる。商店街といっても長さ五〇mほどの空間で、店舗といえばほとんどが居酒屋だ。
喫茶ルノアールの看板と共に村さ来チェーンの屋号も見える。村さ来(品川店)はビル四階での出店で、二〇坪、七〇席の小型店。昭和56年6月のオープン。
村さ来は近接地にもう一店(品川駅前店)を出店している。同一オーナーで、三〇坪、七八席。昭和62年12月の開店。
村さ来品川店正面のビルにも、一階に「福助」、三階「入船」といった居酒屋、割烹料理店が出店している。両店とも同一経営者で、昨年8月にオープンした新装店だ。
ビルの裏手にも細い路地があり、小さな居酒屋が軒を連ねる。大手居酒屋チェーンの天狗、藩、白木屋、やるき茶屋はすべて表通りのビルイン店だが、ここ一、二年内出店のニューカマーだ。
品川インターシティの完成を狙っての出店攻勢と理解することができるが、品川港南口は今後さらに商業集積が進むものと期待される。