飲食店成功の知恵(79)繁盛編 酒とつまみで売上高アップ
売上高アップは、飲食店の究極のテーマである。そんなことはいわれなくても分かっているだろうが、いざ現実の問題として直面したとき、もっともむずかしいのがこのテーマなのだ。
売上げはいうまでもなく、「客数客単価」で決まる。
客数、客単価ともに順調に増えてくれればいうことはないが、実際に経営してみると、なかなかそう都合よくはいかない。したがって、売上高を上げるには、客数か客単価のどちらかに重点を置いた方針を立てる必要があるわけだが、これがいうほど簡単なことではない。
とくにふつうの小規模店の場合、まず客数の大幅アップは望めない。第一、席数が限られてしまう。超繁盛店ならお客をウエイティングさせて客数を稼げるが、一般には現実的な話ではない。となると客単価アップ策ということになるが、これもまたまともにやろうとするとかえって逆効果になる。単純に値上げをすれば客離れが起きるのは、火を見るより明らかだし、食事だけのお客にお店の誘導で追加注文させるのは、そう簡単なことではない。
ところで、少しでもお酒を飲もうかという気になると、だれしも自然と何かつまみがほしくなるものである。食事だけのときだと、追加注文はなんとなく無駄遣いのような気になってしまうのだが、お酒を楽しむという別の目的があれば、サイフのヒモが緩みやすい。このお客の心理に、無理のない売上高アップ策のヒントがある。
つまり、これからの飲食店は、もっとお酒を売る努力をすべきなのである。理由はいまいったとおり、お酒とつまみを売ることが、もっとも簡単な売上高アップの方法だからだ。
単純に考えても、たとえば、ラーメン一杯だけだった客単価に、ビール一本とギョウザ一皿がプラスされるのである。
誤解のないように断っておくが、お酒を売るといっても、何も居酒屋のマネをしようというのではない。ラーメン店ならビールとギョウザ、とんかつ店ならビールとちょっとした小鉢もので十分だ。そば店ならうまくて安い掘り出し物の吟醸酒とやきとりを売り物にするのもいいだろう。
大切なのは、あくまで「無理なく」客単価を上げることなのだ。お酒を売れば売上げが上がるという点に着眼したまではよかったが、逆にそれで失敗しているケースも目につく。
たとえば、ひと口につまみといっても、それがたんなるありきたりのものでは、お客は本業の居酒屋に行くだろう。だれしもわざわざ中途半端なお店で飲みたいとは思わない。また、お店の雰囲気まで居酒屋ふうにしてしまったために、本来の食事のお客に敬遠されてしまうという落とし穴もある。
お酒はあくまで、脇役でいいのだ。たんなる食事でなし、その時間を楽しむために軽く飲むという程度にとどめることが、この作戦を成功させるポイントなのである。そしてじつは、その「楽しもうか」という気にさせる動機づけとして重要なのが、つまみなのだ。なんでもいいから一品、というのではなく、たとえば、名物ギョウザが食べたいためにビールを一本注文する。それがお客の心理というものなのである。したがって、種類は少なくていいから、つまみに何か強力な特徴を持たせることが不可欠になる。
つまみが売れると、たんに客単価がアップするばかりでなく、利益率もグンとよくなる。いうまでもなく、つまみ類は料理に比べて原価率がかなり低いからだ。しかも、そこそこの単価が稼げて、提供の手間もほとんどかからない。この点も、見逃すことのできない大きなメリットである。
フードサービスコンサルタントグループ
チーフコンサルタント 宇井 義行