トップインタビュー ピザチェーン ウイリー代表取締役・橋口政治氏

1995.12.18 91号 3面

‐‐成熟期を迎えたデリバリーピザ業態の現状をどのように捉えているか。

橋口 デリバリーピザ業態は一時の流行を脱して現在は確固たる市場を構築した。だが同時に競合から競争、つまりサバイバル時代に突入している。都市圏における店舗数はもはや飽和状態で、ユーザーの舌も肥えている。流行に乗った勢いだけの展開はいまや通用しない。ブランドイメージも色あせている。商品開発力とサービス力が問われる時期を迎えている。

チェーン本部の商品開発力と現場の店長裁量のマッチングが、今後のチェーン格差の決め手となる。大手チェーンといえど例外ではない。いままではチェーン規模(店舗数、売上げ、知名度など)が企業力の優劣を表すきらいがあったが、これからは技術力や指導力など数字や表面に表れなかったノウハウが企業力の指標となる。

地道な積み重ねを残してきたチェーンが生き残り、物まねや勢いだけで過ごして来たチェーンは脱落するだろう。

‐‐具体的に「ピザ・ウイリー」ではどのような展開を考えているか。

橋口 各チェーンとも宣伝戦略やアイテム構成がマンネリ化していることを踏まえ、商品の品質で差別化を図る。例えばサイドアイテムのフライドチキン。最初はわれわれが手掛けたものだがいまやどのチェーンでもアイテム化している。冷凍チキンをフライヤーで揚げるか、揚げてあるチキンをレンジで温めるのが一般的であるが、ウイリーではチルドチキンに味付を施しオーダー後に揚げている。すると同じアイテムでも比較すると味がまったく違う。

ピザの生地についてもウイリーでは小麦胚芽などを混ぜて健康面に気を配り、また手作り感を重視している。「他チェーンと同じアイテムでもよく見ると違う」といったオリジナリティーをキーポイントとしている。

いままでは業態内で何か商品開発されると各チェーン間で物まねが繰り返されてきた。だが結局は売れ筋だけが残り各チェーンともアイテムパターンがマンネリ化している。同じパターンのアイテムで勝負すれば手間暇かけた方が勝る。またそのようなノウハウは簡単にはまねできない。

ウイリーは他チェーンのさまざまなアイテムをまねするよりも売れ筋アイテムに絞って独自のノウハウを固めて来た。各チェーンのアイテムが同質化したいま、ウイリーのアイテムは味の差別化を鮮明に打ち出せる好機だと考えている。

われわれに限らず他チェーンも同質化による頭打ちを打破すべくアイデアを模索したり、オリジナリティーを研ぎ澄ましている。それらが出揃った時点で、初めて各チェーンのセールスポイントが明確化するはずだ。そして業態はさらに成熟度を増すであろう。

‐‐新規戦略については。

橋口 地方などの小商圏に注目している。デリバリーピザ店は世帯数の多い都市圏での出店が定石とされた。だが最近はピザの人気、認知度は地方にも急激に広まっている。都市型の出店フォーマットを縮小すれば地方などの小商圏でも十分に展開が可能だ。実際に「ウイリーJr」という出店フォーマットを完成させFC募集に乗り出している。設備投資、加盟料、損益分岐点を通常の六〇%におさえたもので、競争に強く貧弱な商圏でもかなりの利益が上がる。

現在稼働している三店舗では損益分岐点が月二七五万円で月商四〇〇万円を優に上回る好結果が出ている。また地方では、車を導入して商圏拡大が可能、北の方は冷蔵庫やエアコンが不要、物件が格安といった都市圏では考えられないメリットがたくさんある。従来培ってきた出店フォーマットに地域性をアレンジした地方展開の方が先行き明るいかもしれない。

‐‐最近デリバリーピザ店で弁当などを扱ったりする、いわゆる複合店が現れ始めているが。

橋口 ユーザーニーズに即していれば大いに結構なことだ。ただし条件がある。まずオペレーションを崩してはいけない。かえって手間がかかり品質や人員管理に支障がでるようでは話にならない。次に投資効率を上げること。複合に際する投資により双方が相乗効果で売上げを伸ばさなければならない。

そしてユーザーニーズを的確に捉え専門的イメージを壊さないこと。何でも手を出してよろずや化してはいけない。専門性を固持したうえで、ユーザーが欲しがる物を複合することだ。以上をクリアすれば複合店として成功といえるだろう。

われわれも東広島店でCVSの「ローソン」と、沼津店ではカラオケボックスと、所沢店では弁当屋との複合店を出店しているが、まずまずの結果を残している。

‐‐近頃、ピザ以外のデリバリー業態がさまざまに現れているが。

橋口 以前から予測されていたことだが、コンビニエンスニーズが表面化しただけのこと。CVS、中食産業の急激な伸び、そして定着が示すように、時代は便利さを追求する一方だ。ビジネスもその後をたどっている。ピザに限らずあらゆる商品のデリバリーが今後は活発化すると見ている。

われわれだって何を扱ってもおかしくはない。成否は別としてマクドナルドがカレーライスをアイテム化したり、CVSが金融の窓口になる時代ですから。

‐‐デリバリーピザが現れて一〇年経つが、その一〇年間は今後幕を開けるデリバリー時代に向けて貴重な財産となりうるか。

橋口 もちろんだ。立地や商圏戦略、宣伝方法、交通、人員管理など、すべてが今後へ向けた貴重な財産だ。

‐‐するとピザチェーンは今後のデリバリー時代を牽引する役割を担うのか。

橋口 すでに担っている。デリバリーすしなどさまざまなデリバリー業種が急成長しているが、これらの功績はデリバリーピザの定着がもたらしたといえる。デリバリーピザが定着し、ユーザーがデリバリーになじんでいるから他の商品もオーダーし易い、というのが現状だと思う。

デリバリー時代はいま始まったばかり。たまたまピザがデリバリー時代に先べんをつけただけのこと。ピザというものさしでデリバリーを語るのはまだ早過ぎるかも知れない。デリバリーピザは極めて高効率な業態といわれてきただけに、システムばかりに甘んじ、抜本的なスリム化を見過ごしてきた感もある。ピザはこれからが成熟期、デリバリーは時代の入り口に差しかかったところ、といった表現が率直なところだ。

‐‐ありがとうございました。

昭和22年鹿児島県生まれ。サラリーマンを経て昭和57年製パン店「ぱんの樹」独立開業(以後五店舗展開中)。62年(株)ウイリーを興しデリバリーピザ「ピザ・ウイリー」のチェーン事業に乗り出す。

「ピザ・ウイリー」は東京、千葉を拠点に全国展開をもくろむデリバリーピザの中堅チェーン。現在チェーン六五店舗を展開。年商は約三七億円(平成7年度)。大手資本のひしめくピザ業態のなかで、堅実な成長を遂げている独立系中堅チェーンである。母体がベーカリーであることから生地のオリジナリティーには定評があり、また複合店や地方出店などのユニークな戦略も注目されている。

「デリバリーピザはこれからが成熟期、デリバリー時代はまだ入り口」を持論とする橋口社長はピザを皮切りにデリバリー市場は拡大の一途をたどるといってはばからない。今後の展開に無限の可能性を示す橋口社長にデリバリーピザの現状と、ピザ以外のデリバリーの展望について聞いてみた。

(文責・岡安)

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