トップインタビュー 日本マクドナルド代表取締役社長・藤田 田氏
‐‐新年早々行ったマクドナルド創立二五周年記念の創業価格八〇円ハンバーガーは大変な反響でしたね。
藤田 五〇〇〇万個売ろうと計画していましたが予定通り売れました。そのかわり、店はべらぼうに忙しかったようです。私も少し店を回ったのですが、普通はハンバーガーでは人が並んでいると後ろの人は帰ってしまう。でも、今回は帰らないんです。がんばって八〇円で買おうというわけです。
‐‐それだけ価格に魅力があるんでしょうね。
藤田 ええ。まとめて買っている方に聞いたらいったん冷凍して子どもが学校から帰ってきたときに電子レンジで温めて食べさせるんだそうです。アンパンでも一三〇円するからと。
‐‐ハンバーガーを冷凍して食べるというのは時代の変化を感じさせる食べ方ですね。しかし、アンパンより安い価格設定はどうして生まれたのですか。
藤田 私は三年ぐらい先には今の物価そのものが半分ぐらいになると見ているんです。したがって先行きは八〇円とか一〇〇円というのがハンバーガーの価格になるのではないか。
というのは長い間一ドル三六〇円で原材料を輸入していたでしょう。それがここ二、三年は一〇〇円になってきた。その一〇〇円で入ってきた石油とか鉄鉱石といった原料が商品になって町に出てくるまでには三年ぐらいかかるんです。そうすると、三年先には物価はずっと下がる。その時に値下げしても意味はない。当たり前のことです。
たまたまうちは商社なので直輸入・直販でどこよりも早く安く売ることができるという事情もあります。
‐‐それにしても、われわれには他の追随を許さないために随分無理をした価格のようにも見えますが。
藤田 いやいや、そんなことはありません。ちゃんと採算はとれて商売になっています。それと、為替も今年の分は昨年の3月に予約して七七円八〇銭でできます。逆に、目下の課題は来年の為替をいくらに見て予約するかということで、夏ごろにめどがつくかと思います。皆さんが一〇〇円とか一〇五円で仕入れている材料が私どもとは原価の時点で三〇円ぐらい違いが出てくる。だから八〇円でも大丈夫。今年はこのような販促を五、六回はしようと思っています。
‐‐価格にもまして、出店もかなりスピードがついているようですね。
藤田 今年は新店を四〇〇~五〇〇店出します。当社では一号店から五〇〇号店まで一四年かかりました。これを一年でしようというのですから、ちょっときついです。それでも昨年、サテライトも含めると三〇〇店ぐらい出店した実績があるので、決して無理な数字ではありません。昨年は売上げもおかげで約四〇〇億円積んで二五三〇億円で着地しています。来年は三〇〇〇億円をめざします。一〇年後には一万店、売上げ一兆円と言っています。
言うのは簡単なんですが、日本の上場会社でも五〇〇億円売っていない会社はいっぱいある。それを一年でオンしようというのですからかなりの冒険なのですが、全社あげて挑戦しています。
‐‐二五周年ですし、やりがいのある年ですね。リストラリストラという時代にそれだけ事業拡大するためにはかなり手を打たれているんでしょうね。
藤田 確かに事業拡大はしています。しかし、たとえば、このオフィスだけでも三〇〇台のパソコンを入れて人間は増やしていない。コンピューターがフォローします。だから、拡大はしていますが従来のような人海戦術ではありません。
二五〇〇億売るのも三〇〇〇億売るのも人件費の面ではほとんど変わらないのです。配送や原材料の手当は大変ですが、メーカーさんに販促なしに売上げが上がるんだから一〇年後の一万店、一兆円に協力をよろしくと要請しています。
電機・ガス・水道などの基礎工事と厨房の設営だけはどうしても人海戦術にならざるを得ませんが、これも昨年の三〇〇店の経験があるので何とかなると思います。
‐‐今日は楽しいお話を聞かせていただきました。最近は不景気ですからこういうお話はなかなか聞けないんです。
藤田 今は景気が悪い。もっとよくなるんじゃないか。そんなことを言っていたらいつまでたってもよくならない。今はみんながボーとしているから一番のチャンスなんです。一〇年ぐらいしてから振り返ったら「あの時がチャンスじゃなかったか。あのときみんなが縮かんでいたから、あの時バッとやったヤツが今勝っている」というような話になるんじゃないでしょうか。
大阪万博の翌年、一九七一年に東京・銀座三越に第一号店がオープン。今年開業二五周年を迎える。「立ち食い文化は根付かない」「流行物で定着する食べ物ではない」などなどさまざまな評論家の言葉をしり目に今や日本のトップ外食企業であるばかりか、世界九〇ヵ国のマクドナルドの利益の二割を稼ぎ出すアメリカに次ぐ重要なポジションにある。いわく「勝てば官軍」なのである。世の中「三〇年がワンサイクル」と見ており、現在次のサイクルの下準備に拍車がかかっている。
(文責・福島)