飲食店の数学講座(6)悪い数字を変えるにはコツがある<5>

2015.09.07 438号 20面

 ポーション(portion)とは、一人前の料理の量のことである。例えば、ハンバーグなら150g、それに醤油風味のおろしソースが30g、付け合わせにバター炒めホウレンソウ30g、フレンチフライが50g(中くらいのもの5~6本)。

 このように、決められた量をきちんと守り、調理することで食材原価率は安定する……はずなのだが、口で言ったり、紙に書いただけで物事が徹底できるなら、そんな楽なことはない。実際に、ディシュ・アップされた料理を計ってみると、驚くほどてんでんばらばらで、少なかったり、多かったり。

 昔、チェーン店でよく言われたことだが、「同じチェーン店なのだから、あの支店は盛りがいいが、こっちの支店は盛りが少ない……などということがあってはならない!」。しかし、この考え方は偏っている。

 チェーン店だろうが、個人店だろうが、レシピで決められた量を守らなければ、食材原価率は絶対に安定しない。

 食材原価率が安定しなければ、目標の利益が達成できない。目標利益が達成できなければ、新しいオーブンが買えない、古い店も改装できない、新人も採用できない。最も重要なことだが、あなたの給料が増えない。

 結論は、一人前の量目管理(ポーション・コントロール)を調理人だけではなく、店のスタッフ全員がその重要性を認識して、徹底して守ることである。それには、「計量」を習慣づけることだ。

 今から40年前、忘れられないエピソードがある。

 筆者は、新興のファミレス店の調理場にいた。当時のファミレスは、日曜日ともなると、豊かになった郊外ファミリー客でごった返していた。調理師免許を取得したばかりの25歳調理師、それが私だった。

 「本日、R部長が巡回にきます」

 朝礼で伝えられると、調理場に嫌なムードが漂った。R部長とは、鬼のエリア・マネジャーのことである。彼は、オーダーがピークになる時間帯に、デシャップカウンターの前に仁王立ち。手元には大きな計り。出てきた料理、特にライスを計量するのである。

 そして、決められた200gを、少しでもオーバーしていればすべて「盛り直し!」と突っ返した。

 「なにもこんな時に……」と思ったが、これが絶大な効果をもたらした。同店は、年間を通じて目標食材原価率を達成し、千葉エリアでNo.1の実績を残したのだ。

 そして現在、ポーションコントロールは、「機械化」によって達成されようとしている。牛丼M屋などが導入している、自動飯盛器などがそれである。これら自動機器の導入で、ポーションコントロールは飛躍的に進化している。

 しかし、基本はあくまで人の手の感覚。

 人間が主役だからこそ、飲食店の繁盛もあるからである。

 (ドクター・マヒマテック)

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