海外通信 外食ビジネスの新発想(66)趣味からプロの職人に

「ブリオッシュ・ジャポネーズ」(£10)「Britain's Best Loaf Award2023」受賞。中にはホワイトチョコレートとドライフルーツがたっぷり。審査員は、材料の卓越した使い方と食感の素晴らしさをたたえた
●イギリス最優秀パン「ブリオッシュ・ジャポネーズ」自宅で週2回パン焼き
イギリスに住む日本人女性が焼く抹茶ブリオッシュパンがイギリスの製パンコンペで最優秀賞およびイノベーション賞をダブル受賞した。「何年も審査員を務めてきたが、このようなパンは初めてだ」とはクラフト・ベーカーズ協会会長の弁。
受賞したのは、ロンドンから250kmほど北上した所にあるダービーシャー州マトロックに住む青悦美代さんの「ブリオッシュ・ジャポネーズ」。生地に抹茶を混ぜ、ホワイトチョコレートとドライフルーツを折り込んで焼いたブリオッシュパンだ。ふわふわのパンの上にカリッとしたマカロンがかぶせてあり、アクセントとなっている。「スペシャルなティータイムのパン」ということだ。
青悦さんは、自宅キッチンで週2回パンを焼き、「くまさんベイクハウス」というベーカリーを営んでいる。そもそものパン作りのなれそめは、長年、欧州委員会で働くご主人と共に過ごしたフランスからイギリスに帰ってきた2009年のこと。フランスのおいしいパンに食べ慣れたご主人は、イギリスのパンはどうもまずいと言う。そこで自家製パン焼きを始め、短期の製パンクラスに参加したり、プロのためのコースを受講したりして腕を上げていった。19年に製パンコンペに初めて出品参加した「シトラス・アンド・チョコレート・ブリオッシュ」が準優秀賞を受賞。要望に応える形で「くまさんベイクハウス」をオープンし、自家製パンを本格的に販売し始めた。
青悦さんのパン工房は、週に2回、木曜(11時30分~19時)と土曜(11時30分~14時)に、予約した客に取りに来てもらうパンクラブの形式だ。だから毎回、まるきり同じものを続けて作ることはしない。同じ生地でも、ドライフルーツやシードを入れることでバラエティーを増やせるが、毎回「自分のもの」を創造するのに苦心する。木曜は平日なので主にローフ類(ホワイトサワードウ、カントリーサワードウ、コットンローフ)、土曜は週末なのでローフ類(ホワイトサワードウ、ホールミールサワードウ、コットンローフ)のほかに、菓子パン2種も加える。菓子パンは、60個から120個ほど作るが、一つ一つ丸めなければならないから手間がかかり、ご主人にも手伝ってもらう。前晩は徹夜になるそうだ。
青悦さんは、五感を使ってパン作りしている。サワードウは温度管理が重要で、寒い冬はぬるま湯を使ったりといろいろと気を配らねばならない。発酵に必要な時間も夏と冬では違う。五感を研ぎ澄ませて把握しながら、微妙な調整を行ってパン作りをする。パン作りはなかなか大変な作業で、自信がついてきたのは5年ほど経ってからだったという。
青悦さんによれば、パン作りに必要なのは、試行錯誤を繰り返しながら改善していく能力。もとはといえば、青悦さんは、大学院で教育学を専攻し、修士号を2つ取得した教育の専門家だ。その姿勢は、そうした教育現場の背景から培ったものかもしれない。
●店舗情報
くまさんベイクハウス(Kuma-San Bakehouse)
所在地=Limestones, Dale Road North, Matlock Derbyshire DE4 2HY BRITAIN