外食の潮流を読む(102)時間制セルフ式ドリンクバーでノンアルを増やし利益率が高まる

2023.12.04 538号 11面

 東京・新橋にある「大新橋おさかなセンター」は、刺身を厚切りでダイナミックに提供する居酒屋。同店では、コロナ禍中にアルコールを含めたドリンクの提供をセルフ式に切り替えた。焼酎は甲類からプレミアムな乙類まで50種類を取り揃えて、割り材も豊富。これが60分600円、90分1200円、120分1800円といった具合に時間で区切って飲み放題にしている(「ビールあり」は別の料金体系)。

 2017年から肉バルとして営業していたが、コロナ禍になって現在の業態に転換した。そして、コロナが落ち着いた今、過去最高売上げを継続しているという。経営するのは宮城・仙台に拠点を置く飲食企業のスタイルスグループである。

 同店の店長、鴇田香里奈さんは(46)は福島・郡山の飲食企業に15年間勤務していた。全国組織の勉強会である居酒屋甲子園に興味を抱き、仙台に通ううちに会を主宰するスタイルスルグループ代表の佐々木浩史さんからスカウトされた。

 鴇田さんに課せられたミッションは、同社の東京展開を推進すること。そして、現在に至っている。飲食業は地方都市での営業を長く経験していたが、東京で営むようになってすぐに「商売の仕方を根本的に変えないといけない」と痛切に感じたという。

 「郡山では地元密着で常連さんをつかみ、その方々と密接になることで、数字に表れてくる。東京の場合は、初めてのお客さまの“数”を獲得することが重要で、これを追求していかないと売上げにつながらない」。

 そこで、SNSで新規のお客へのアピールを熱心に行った。

 肉バルの当時、45坪で120席だった店が、今の業態に転換して68席と営業規模は半分近くになった。会社の方針でドリンクをセルフサービスに切り替えることになったが、これでドリンクの原価率が50%に。「こんなことで、どうやれば利益を出せるのか」(鴇田さん)と悩んだという。そこで「お酒を飲まない若者が増えている」というトレンドに着眼して、お茶やソフトドリンクのメニューを充実させた。そして、これが多様な顧客満足に応える仕掛けとして活躍するようになる。

 鴇田さんによると「中高年のお客さまはアルコールを濃くする傾向がありますが、若いお客さまは薄くする傾向があり、ノンアルコールの需要も多い」と言う。オリジナルのジュースも増やして、夏に店で搾ったスイカのジュースを入れたところ人気を博した。このような品揃えによってドリンクの原価率は20%を切るようになった。客単価は今、3600円となっている。

 オペレーションの人員は平日が4人、週末は5人体制。肉バル当時に比べて半分の人員だ。しかしながら、生産性ははるかに高くなっているという。鴇田さん以外の従業員は外国籍の人々。これらのメンバーでランチタイムにスリランカカレーも提供するようになった。これからも人材不足は懸念されるが、同店は商売の発想を膨らませることでチャンスをつかみ取っている。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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