外食の潮流を読む(103)錦糸町駅から徒歩10分の住宅街で、低家賃高付加価値の繁盛する秘訣
知人から、こちらの店の繁盛ぶりを紹介されて、地図を見ながら向かっているとき、本当にこの店はあるのだろうかと疑った。JR錦糸町駅の北口から徒歩で北の方向に進む。周りは完全なる住宅街。車の通行が多い大通りを左に曲がる。駅から徒歩10分で目的の店「錦糸町ジンギスカン オクノ羊ヤ、」に到着した。4階建ての古いビルの1階にある。同店を経営するのは(株)アクセット(本社/東京都港区、代表/椎名健仁)。ちなみに、店名の最後の点は「これからも続く」という意味を込めているという。
同社は2017年7月に設立して、当初から不動産業を軸としてきて、新規事業として20年2月から障がい者グループホームの運営を始めた。これに続く新規事業としているのが、この店に始まる飲食事業である。
同社がこの物件と出合ったのは、錦糸町の不動産業者を引き継ぐことになり、このビルの所有者から「1階にテナントを募集してほしい」と委託されたことがきっかけであった。聞くとこのビルには1996年から借り手がいないという。
同社では、かねて「地域に根差した事業をしたい」という思いを抱いていて、このビル1棟を借りる決断をした。家賃は17万6000円。1フロアは約12坪、屋上も営業スペースとして想定できることから、5フロアを新しい事業に生かすことを考えた。1坪当たり3000円弱という計算になる。22年7月に同店をオープン。
最初の飲食店を「ジンギスカン」にした理由について、代表の椎名氏(34歳)はこう語る。
「僕らは誰も料理ができなくて、一番味のブレがないものは何かを考え、それはラムだとひらめいた」。
オープンして丸一年以上が経過したが、12.5坪で月商600万円のレベルが定着するようになった。その要因はラム肉のクオリティーが上質で安定していることが挙げられるが、もう一つ生ビールやスパークリングワインの飲み放題90分1595円(税込み、以下同)も大きなファクターだ。毎晩18時を過ぎると近隣のお客が詰めかける。
この7月、同ビルの2階に「大人洋食Bistro1996,」をオープンした。この店は元高級ホテルのレストランで活躍したフレンチのシェフを招へいしてオープンした。都心では優に1万円を超える内容が客単価6000円となっている。今後は3階から上のスペースの活用を順次進めていく意向だ。
椎名氏は、何かにつけて「僕らは飲食の素人だから」を枕詞にしているが、むしろそれが同社の飲食店の大きな武器となっている。
飲食業では家賃比率は「10%」が常識となっている。この比率が大きく下がると、フードに大きくお金をかけることができるようになる。そこで、人気の業種で、クオリティーも安定しているとなると、地域の人に大いに歓迎される店となる。「駅前に行くより、近所のジンギスカン」という感じだ。
これからこのビルの上階がどのように展開していくかとても興味深い。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。