外食の潮流を読む(105)トレンドを生み出し続ける際Co.、高付加価値路線で顧客心理つかむ

2024.03.04 541号 11面

 中島武氏が率いる際コーポレーションは、飲食業界に新しいトレンドをつくり続けている。

 中島氏は1990年に金融業から転じて飲食業に参入。創業の店である「紅虎餃子房」がたちまち大繁盛し一世を風靡(ふうび)した。

 当時はチェーンレストランが隆盛していて、このパターン化された飲食店の傾向に対し、消費者は「何か特徴のあるもの」を求めるようになっていた。

 この時、際コーポレーションが展開する店は、当時の日本における中国料理の概念にはない、昔の中国の路地裏にあるような雰囲気で、料理の味付けがこれまでの中国料理や町中華に追随しない主張のある(辛い、しびれる、など)ことも新鮮だった。これらの独創的な大ヒットメニューとして「鉄鍋棒餃子」や「黒酢酢豚」が挙げられる。客単価は当時のファミリーレストランとほぼ同等。このように“個性”を発信する際コーポレーションは、飲食業界に新しい潮流を切り開いた。

 同社はその後、物販業や宿泊業なども展開。2023年12月には330店舗の陣容となっている。

 コロナ禍にあっても、同社の動きは冴えていた。飲食業界は行政から営業規制を強いられていて、同社はそれに従った。そして、21年1月、都知事宛てに時短営業に対する協力金を中小企業だけではなく大企業にも広げる要望書を提出した。

 厳しい営業環境にあって「にょろ助」という大ヒットコンセプトを生み出した。これは、営業時短要請を受ける中で「夜8時閉店に間に合うようにお客さまがやって来る店」として「ウナギ」に着眼。業績不振で撤退案も浮上していた東京・赤坂の「瓢六亭」を「にょろ助」の店名に変えて、原価をかけた商品を提供。20年11月に「鰻重」を「蒲焼一尾」3800円、「蒲焼二尾」5280円で提供したところお客が殺到。初日の売上げが50万円、翌日曜日は90万円となった。その後このブランドを展開していくが、「ウナギ屋」ビジネス全般が活況を呈するようになった。

 最近の話題は、東京駅丸の内南口方面、丸ビル6階にある天ぷら専門店「天まる」のメニュー設計である。コロナ禍の影響によって同店が営業する飲食フロアでは「居酒屋化」が進み“特別感”が薄らいでいたとのこと。ここにテコ入れを図るため、23年8月にメニューを抜本的に変更。特に「天丼」はごちそう食材をあふれんばかりに立体的に盛り付け、SNSで“映える”見せ方をした。それがWeb上で広がり、天丼のトレンドをつくり上げた。価格は「海老天丼」10尾4180円、「天まるはみ出し天丼」特上4840円。決して安くはない。

 同社代表の中島氏は「価格2500円で原価30%と、5000円で原価50%の商品では、どっちがお客さまが喜んで、店ももうかるか、わかりますね」という。前者の利益は1750円、後者は2500円。そして、後者は前者より多少高いがお値打ち感は圧倒的である。コロナが去り、飲食業界は好調である。中島氏の飲食業のセンスは卓越している。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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