外食の潮流を読む(112)寿司や和食の職人を短期間で育成する仕組みで海外展開を想定する
大東企業(本社/東京都千代田区、代表/北尾拓也)は、2022年11月から「板前オープンスクール」と銘打って、「寿司職人コース3ヵ月」と「板前コース6ヵ月」のカリキュラムを展開している。これは、コロナ禍にあった当時、同社社員のうち3分の1程度が退社してしまい、板前が減ったことを補うために設けたもの。これらを設ける前には一般的に「寿司経験者募集」をうたって行っていたが、そのペースでは不足した板前を補うことができないと判断して、これらのカリキュラムを設けることになった。
「板前オープンスクール」のメッセージは、「最速、最短、最前線で、働きながら学べる」というもの。これまでの和食の調理の世界は、入ったばかりの新人が、調理長から直に指導を受けて技術を習得するのは難しい状況であった。しかしながら、このスクールでは、生徒が実際に同社の店舗で働き、収入を得ながら短期のカリキュラムで学ぶことができる。
例えば、寿司職人の場合。本来は「見て習う」から始まり、「出前営業」「包丁学び」「仕込み」「旬魚処理」「裏方握り」の後に「接客握り」がゴールとなる。そこで修業と学びで5年間、最長で10年かかるといわれてきた。
しかしながら、このカリキュラムはこれとは全く逆のアプローチを行っている。本来のゴールである「接客握り」からスタートして、「裏方握り」「旬魚処理」とさかのぼっていく。この3段階を3ヵ月間で習熟してもらう。顧客に最も近いところから、楽しく、必要不可欠なことを重点的に学んでいく。
同社では昨年、寿司業態の「KAI(魁)」というブランドを2店舗つくり、ここでスクール生が握った寿司を普通の寿司の半額程度で提供する「板前スクールランチ」の販売を行ってきた。さらに、平日は「寿司居酒屋 番屋 銀座本店」として営業している店舗を、この6月8日から毎週土曜日限定で、新人寿司職人たちが運営する店舗「若氏」として営業。調理や接客だけでなく、商品開発から原価計算、価格設定まで新人がすべてに携わり、実践を通じて学ぶことが目的だ。
これらスクール生の出口は「海外出店」としている。同社では現在国内27店舗(焼肉店などを含む)のほか、海外店舗としてタイのバンコクに高級和食店「北大路」を1店舗、擁している。そこで、これから海外出店に注力して「KAI」の展開を推進していく計画を立てている。また、海外でも「板前オープンスクール」の仕組みを導入して、現地の人たちに寿司の技術を習熟してもらい、現地の人が調理長となって寿司業態を運営してもらうことを想定している。
同社ではコロナ禍によって厳しい事態を強いられたが、このような環境の中で新しい職人育成のカリキュラムを編み出して、新しい活路として海外展開に向けた仕組みを構築した。さらに国内では、この仕組みを活用してFCの展開をしていこうと準備を進めている。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。