ニューヨーク通信 外食ビジネスの新発想(39)NYの名物ジャガ芋料理「クニッシュ」
新しい画期的なレストランが次々と開業するニューヨークであるが、どんなダイエット・ブームにも、世の中の景気にも押されず、1910年に開店してから100年の長きにわたって、地元の人々に愛され、ニューヨークのモニュメントの一つになった店が、「ヨナ・シメル」だ。ジャガ芋を使った、伝統的なユダヤ料理であるクニッシュが売り物で、クニッシュ一筋に1世紀の間、営業し続けてきた。(外海君子)
クニッシュとは、ジャガ芋をゆでてすりつぶし、炒めた玉ネギを加えて塩・コショウし、生地に包み込んで焼くか、揚げるかした素朴な料理だ。「ヨナ・シメル」では、揚げずに、レンガのオーブンで焼いている。すでに味は付いているが、好みによって、マスタードを付けて食べる。東欧からのユダヤ移民によって、アメリカにもたらされた。
この店は、20世紀初頭にルーマニアから移民したヨナ・シメルが始めたもの。当初は、ジャガ芋とそばのクニッシュだけを作って売っていたらしい。店内には、古い新聞の切り抜きや、店を訪れたウディ・アレン、バーバラ・ストライサンドなどのセレブの写真が無造作に張られ、いすも机も古くてガタガタしているが、どこかなつかしくなる素朴な店だ。テーブルには、訪れたお客が感想を書き入れていく分厚いノートが置いてある。
クニッシュは、サイドディッシュやスナックとして食べられるが、ヨナ・シメルが地下にあるキッチンで手作りしているクニッシュは、1つで1食分になるほど大きく、どっしりしている。1個3$50¢。
一時、アトキンスの低炭水化物ダイエットがはやったが、極端に炭水化物を排除するダイエットは批判の的になり、今ではブームも収まった。アメリカ政府は、1日総カロリーの45%から65%を炭水化物からとるように推奨しているが、敬遠されがちのジャガ芋は、実は、バターやチーズを加えない限り、かなり低カロリーのダイエット食品である。ジャガ芋でできたスタンダードなクニッシュは、コロッケに似ており、日本人にとってもなじめる味だ。
ジャガ芋のほか、そば、赤キャベツ、ホウレンソウ、マッシュルーム、サツマ芋、野菜(グリンピース、ニンジン、トウモロコシ、インゲン)、ブロッコリーの8種類がある。
なお、ラトカと呼ばれる、ジャガ芋でできたパンケーキも、人気のメニューの一つだ。おろしたジャガ芋に、小麦粉、卵、玉ネギやニンニクを加えて揚げたもので、そのまま、もしくは、サワークリームやアップルソースを添えて食べる。
正統なクニッシュを作り続けて100年。もはや、店はニューヨークの名所の一つにもなり、絵葉書にもなっている。
●事業データ
ヨナ・シメルズ・クニッシュ・ベイカリー(Yonah Schimmels Knish Bakery)/所在地=137 East Houston Street, New York,New York/開業年=1910年/営業時間=月~木午前9時~午後7時、金~日午前9時~午後11時/メーン・メニュー=クニッシュ(伝統的なユダヤのジャガ芋料理)