ニューヨーク通信 外食ビジネスの新発想(46)「ベンズ・チリ・ボウル」
◆オバマ大統領も訪れたワシントンのランドマーク セレブも愛する庶民の味チリドッグ
ブッシュ前大統領と違い、オバマ大統領一家は、よくホワイトハウスから出て、外食することで知られている。大統領の訪れたレストランは、メディアで取り上げられ、たちまち知れ渡り、大きな宣伝効果になる。民主党は、どちらかといえば、ヘルシーでオーガニック、進歩的な食習慣で知られるが、オバマ大統領は、庶民の味も好む。
大統領が訪れた場所として最初に脚光を浴びたのが、大統領が就任式の10日前にワシントン市長と行った、首都ワシントンの下町にある「ベンズ・チリ・ボウル」だ。(外海君子)
同店に出かけたオバマ大統領がオーダーしたのは、ポークとビーフのスモークソーセージを蒸したパンの上にのせ、マスタード、オニオン、チリソースをかけた「チリ・ハーフスモーク」と、チリソースをかけたポテトフライにアイス・ティー。経営者は支払いを遠慮したが、大統領は、計12ドルの計算になるところを、チップを含めて20ドル渡したという。
同店は、1958年に、当時、治安のよくなかったワシントンの一角にオープン。お客の中には、デューク・エリントンやマイルス・デイビス、ナット・キング・コールなどがいたという。ビル・コスビーが好んだのが、オバマ大統領も注文したチリ・ハーフスモークで、今でも店1番人気のメニューだ。開店当時からの人気メニューで、牛肉と豚肉を半々、4分の1ポンドを使って作ったソーセージは、歯応えがあり、香ばしい。かけてあるチリソースは、典型的なチリの味とはかなり異なるユニークな風味で、辛みが効き、かなり濃厚だ。ハンバーガーやサンドイッチもあるが、ほとんどのお客はこの店の看板であるチリドッグやチリ・ハーフスモークをオーダーする。
フランスのサルコジ大統領夫妻一家も、ワシントンを訪問した際、同店を訪れた。元ファッションモデルで歌手のサルコジ夫人もチリドッグを2本平らげたという。マネジャーによると、サルコジ大統領一家は、「うちに来るお客のタイプではない」ということだが、確かに、大衆の味、チリドッグを食べに同店を訪れるお客は、ほとんどがカジュアルな服装に身を包んだ庶民だ。
ワシントンのモニュメントにもなった同店だが、しかし、ここに至るまでには、1960年代の公民権運動の暴動で周辺ががれき化したり、80年代後半からの5年余りにわたる地下鉄工事で集客数が減り、店員を2人に縮小して細々と続けたりと、いろいろなスランプも経てきている。半世紀にわたり、さまざまな試練を乗り越えて存続し続け、大統領が訪れるまでの存在になったのも、元はといえば、この店のチリドッグを初めとするメニューが人々の舌を満足させたからこそなのだ。
●人気メニュー・ベスト5
(1)「ベンズ・オリジナル・チリ・ハーフスモーク」(5$45¢)
(2)「ベンズ・フェイマス・オールミート・チリドッグ」(3$99¢)
(3)「チリコン・カーン」(小4$15¢、大5$65¢)
(4)「チリ・チーズフライ」(5$45¢)
(5)「シック・クリーミー・ミルクシェイク」(3$25¢)
●事業データ
ベンズ・チリ・ボウル Ben’s Chili Bowl/所在地=1213 U Street NW Washington DC/開業日=1958年8月22日/営業時間=朝食:月~金午前6時~11時、土午前7時~11時、レギュラー・メニュー:月~木午前11時~翌午前2時、金~土午前11時~翌午前4時、日午前11時~午後8時(夏午前11時~午後11時)/1日来店客数=750~1000人