外食史に残したいロングセラー探訪(51)世界の山ちゃん「幻の手羽先」
名古屋めしを代表するメニューの一つ「手羽先」。その手羽先文化を全国に広め、名古屋めしとして手羽先を全国に定着させたのが「世界の山ちゃん」だ。
世界の山ちゃんの看板メニュー「幻の手羽先」は1日当たり約2万本、売上げの約18%を占めている。
◆コンセプトはまね、そこに独自性を付加
世界の山ちゃんは1981(昭和56)年6月14日、名古屋の繁華街、新栄で現会長の山本重雄氏が創業。当時の店名は「串かつ・やきとり やまちゃん」。わずか4坪・13席の屋台のような店舗からのスタートだった。創業当時は、定番の居酒屋チェーンに飽き足りなくなった若者を中心に人気店となった。当時は店員が常連客に勧められればビールを飲んで一緒に盛り上がるという大らかな雰囲気だった。
その雰囲気の中で店員がジョークで「はい、宇宙の山ちゃんです」「世界の山ちゃんです」と電話対応していたことからいつの間にか店名は、世界の山ちゃんへと変わっていった。今から25年ほど前の話だ。
幻の手羽先のネーミングもこんな雰囲気で常連客とのやりとりの中で生まれ、いつしか定着していったものだ。創業当時の人気メニューは串カツ・やきとり、手羽先もメニューにはあったが、手羽先のパイオニアである「風来坊」の人気と知名度は群を抜いていた。「手羽先の唐揚げというコンセプトは当社のオリジナルではない。はっきり言ってまね」と山本裕志社長。しかし、「ただまねしたわけではない。論より証拠で食べ比べてみれば分かる」というように甘辛い風来坊の手羽先に対して、幻の手羽先はコショウが効いたスパイシーなピリ辛味。商品の形態も手羽先の形をそのまま生かしている。コンセプトはまねであっても、そこに味、商品形態の独自性が加わっていることと、幻の手羽先というネーミングのおもしろさが話題を呼び、看板メニューへと育っていった。
スパイシーなピリ辛味については、「辛すぎる」というクレームも現実にあり、社内でも「テークアウトは、スパイスを別添にしては」といった議論が何度も繰り返されているというが、そのたびに「これが幻の手羽先の味なんだ」とかたくなに守ってきた。
また、創業者の山本会長がモデルとされるキャラクターの力も忘れてはならない。1997(平成9)年に登場したこのキャラクターは3代目で、名前は「鳥男」。10年ほど前のコンビニの企画商品を皮切りに、多くの食品企業とのコラボで「幻の手羽先風味」の食品が登場し、携帯ストラップ、Tシャツなどの非食品にも広がり、名古屋めしから名古屋土産へと進化している。今では、販売業態も居酒屋だけでなく、テークアウト専門店、フードコート、通信販売など広がりをみせている。
●店舗データ
「世界の山ちゃん」/経営=(株)エスワイフード/所在地=名古屋市中区新栄1-22-24/店舗数=66/創業=1981年