フードコンサルティング 上場企業にモノ申す(5)吉野家VSすき家・松屋

2011.12.05 393号 06面

 牛丼チェーンを売上規模でみると、最大手はゼンショー「すき家」、2番手は「吉野家」、3位が「松屋」となっている。

 吉野家はもはや牛丼チェーンのトップではないのだ。80年代に一度倒産の憂き目に合うものの、100年を超える同社の歴史は、わが国における牛丼の歴史そのものといっても過言ではない存在であった。

 ところが数年前から激しさを増してきた牛丼の値下げ競争に巻き込まれ、ついに業界首位の座をすき家と「なか卯」を擁するゼンショーに奪われてしまった。

 「牛丼戦争」といわれる大手3社の値下げ競争は、ほぼ3ヵ月ごとにどこかが仕掛けるという状態が続き、今夏も吉野家が7月下旬から牛丼並盛り380円を270円に値下げしたところ、3日後には、すき家となか卯が牛丼並盛りを250円に値下げした。

 3番手の松屋も、創業45周年記念で牛めし並盛り240円のキャンペーンを実施するなど、まるでゼンショーと松屋が組んで吉野家を狙い撃ちにする格好。

 ちなみに、同社の安部社長は吉野家生え抜きだが、首位を奪ったゼンショーの小川社長も、創業前は吉野家に勤務し、吉野家の倒産も経験している。まさに因縁の対決なのである。

 果てしなき牛丼戦争に見切りをつけたのか、同社筆頭株主で主要取引先の伊藤忠商事が、今年1月に持ち株(21.04%)を吉野家に売却。撤退する伊藤忠商事に代わって吉野家が自己株式として引き取ったのだ。

 確かに、業績面では前々期の巨額損失(純損失▲89億円)計上からは持ち直してきてはいるものの、既存店舗ベースの昨年対比では、10年8月から11年7月までの1年間で見ると、すき家、松屋は昨対超えを果たしているものの、吉野家だけは98.3%と、一人負け状態となっている。

 また、財務面でも、直近3期では自己資本が678億円(09/2月期)→575億円(10/2月期)→423億円(11/2月期)と毎期100億円ペースで減少している半面、有利子負債は逆に148億円(09/2月期)→195億円(10/2月期)→282億円(11/2月期)と、買収などの影響でここ数年で急増していることも気になる。

 吉野家の弱点は、「牛丼一本足打法」と揶揄(やゆ)されてきた、牛丼に偏った収益体質であったが、このバランス改善を図るべく、「はなまるうどん」や持ち帰り寿司の「京樽」、ステーキの「どん」など、知名度を有しながらも経営不振に陥っていた外食企業を積極的に買収してきた。

 買収した子会社の再建も、11年2月期までにある程度のめどが立ったことから、経営陣は、今後もライバルのゼンショーを追いかけながら、さらなる外食企業のM&Aを繰り返す方向にあるのかもしれない。

 松屋のように牛丼を主力商品に位置付けつつも、定食メニューやサイドメニューを充実させ、客単価と利用頻度向上を図り、規模よりも収益体質を強化するという選択肢もあるはずだ。

 すでに、売上規模も時価総額もゼンショーの半分程度となっている状態では、もはや体力勝負の牛丼値下げ競争や、有利子負債を増やす大型のM&Aは限界に来ているのではないか。

 安部社長は、HP上で「プレゼンス(存在感)の向上を目指します」と表明しているが、かつてほどの活気がなくなった店を見ていると、外食チェーンの中でも存在感が徐々に薄まりつつあることを一番感じているのは安部社長ご本人ではないだろうか。同社復活に残された時間は少ない。

 ◆フードコンサルティング=外食、ホテル・旅館、小売業向けにメニュー改善や人材育成、販売促進など現場のお手伝いを手掛ける他、業界動向調査や経営相談などシンクタンクとしても活動。

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