外食の潮流を読む(79)フルーツパフェ専門店を東京に 出店した和歌山農家の狙いとは
「観音山フルーツパーラー」というフルーツパフェ専門店が、10月に東京・銀座、11月に表参道と相次いでオープンした。メニューは定番の「フルーツパフェ」1980円(税込み、以下同)にはじまり、旬のフルーツ単品で構成した圧巻の季節メニューがある。この原稿執筆時は「いちじくパフェ」2200円、「柿パフェ」2310円を提供していた。
経営は和歌山県紀の川市の果物農家、農業生産法人有限会社柑香園(銀座店は直営、表参道店は共同経営)。1911(明治44)年に果物農家として創業し、現在の経営者、代表取締役会長の児玉典男氏は5代目、代表取締役社長の児玉芳典氏は6代目。同社の特徴は代々一貫して直接販売を行ってきたということ。特に現会長、5代目の典男氏は1990年代半ば、インターネット黎明期の中でホームページを作成、個人への直接販売を行うようになった。典男氏はこう語る。
「生産者にとって一番うれしいのは、自分が作ったものを消費者がどのような場所で、どのような表情をして食べているのかを知ること。『おいしかった』と言ってくれると素直にうれしいし、『あれはもっとこうした方がいい』ということであれば、改善するための意欲が増す」。
さらに、柑香園が個人向け直接販売に傾注していく中で出来上がっていったのは、商品を1年間絶やさず販売するということだ。このために近隣の果物農家と連携するようになり、協力農家は300軒となった。さらに全国の産地とのネットワークが広がり、旬の果物のバラエティーが豊富になった。このような供給体制がフルーツパーラーを開業するアイデアにつながった。
個人向け直接販売の売上げは増え続けている。現状、顧客情報を30万件保有し、商品情報をメールで送信して購入動機につなげている。顧客の増加に伴って栽培面積が不足するようになり、耕作放棄地約8ヘクタールを借り受け、現在の果樹農園は14ヘクタール(東京ドームの約3.5倍)となっている。
18年に現在の本部である新社屋が完成。生産、加工、出荷、販売に加えてフルーツパーラーが一体となった施設になった。この「観音山フルーツパーラー本店」は同年4月にオープンした。
本店は店内40坪、テラス席10坪で60席の規模。フルーツパフェは1品2000円前後となっている。連休ともなるとウエーティングが200人で3時間待ちということも珍しくない。自動車のナンバーは沖縄、札幌という遠隔地のものもある。和歌山県の南側に位置するリゾート地・白浜町の周遊観光で利用されているもようだ。柑香園の年商は6億円で、そのうちこの本店と関連商品の売上げが1億5000万円を占めている。
銀座店の店内ではプロジェクターで和歌山・観音山現地の果樹園や生産の様子が投影されている。このような1次産業と3次産業の距離の近さは、さまざまな分野に持続可能な力をもたらすことになるであろう。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。