クローズアップ現在:韓流ブームに変化の兆し 既存業態をコリアンVer.に
ブームが長く継続している飲食業界の“韓流”は、コロナ禍で特に若い女性に人気の韓国ツアーができなくなったことが後押しする形となり、いっそう活発化すると共に新しいトレンドをもたらしている。これまで多店舗化している大衆的な韓国料理店はディナー帯の豚肉料理「サムギョプサル」を主軸に構成されていたが、甲羅グループ、養老乃瀧が着手した新業態には、ブランディングや新しい食事業態としての試みが見られる。
甲羅グループでは総店舗数317店舗(2022年3月末現在、以下同)の中で226店舗を占める主要ブランドの「赤から」に韓流の要素を加えた「赤からソウル」を昨年9月から浜松初生店(静岡)、札幌すすきの店(北海道)、恵比寿西口店(東京)の3店舗で展開している。「郊外ロードサイド型」「繁華街型」「都心型」というパイロットショップであり、既存顧客のファミリーに加えて若い女性客が増えた。
鈴木雅貴社長によると、「『赤から』が増えてきたことで、エリアによってはカニバリが生じている。『赤から』の看板メニューは『和風チゲ鍋』といった感覚だが、これを韓国バージョンにしてみようと考えた」という。
「赤からソウル」では新たに、名物となる「赤からサムギョプサル」「韓流 赤からソウル鍋」をメニュー導入した。従来の「赤から」では2人前からの注文となるが、「赤からソウル」は1人前から注文できるようにしたことで利用しやすくなり、「赤から」の客単価3000円弱に対し2600円弱に低減したが、客数は増加した。
同社では10年前から「赤豚屋」(チョッテジヤ)という韓国業態を展開している。当初はかなり尖っていたが、あるK-POPスターが引退するタイミングの2010年以降、多店化できるよう仕組みを変え、現在8店舗となっている。これも今回のアイデアにつながった。また、コロナ禍にあって同社はOEMで「赤から」のスープを作り、小売店で販売したところ売れ行きは好調。そんな事情も加わり、「赤からソウル」は韓流が持つ高い集客力にプラス「赤から」ブランドの認知を広げる好機として着手されたものといえる。
「養老乃瀧」「一軒め酒場」など全国に居酒屋を約350店舗擁する養老乃瀧では、昨年11月より「韓激」の展開を開始。南砂町店(東京都江東区)を皮切りに、京成曳舟店(東京都墨田区)、月島店(東京都中央区)、新潟店(新潟市)と相次いでオープンした。これらの店舗は既存の業態から転換したものであるが、今後は巣鴨店の新規出店、池袋本社ビル3階での出店も計画している。
同社の谷酒匡俊取締役によると「この2~3ヵ月で数店舗を展開していきたい」という。
「韓激」の特徴は“メニューの絞り込み”と“低価格”。全体51品目で200円代23品目、300円代15品目、400円代13品目(以上、税抜き)。酒類は全部揃っていて、「角ハイボール」330円(税込み、以下同)、ノーブランドの日本酒「熱燗・冷酒」209円、「いつものレモンサワー」209円となっている。谷酒取締役は「“健康的”という発想から韓国料理に入って、野菜を中心とした食事どころを想定した」という。客単価2300円を想定していたが、現状は2200円で、原価率は30%。主要客層は30~50代の男性客を想定していたが、実際は30~40代のママ友的な女性グループや、20代カップルの利用が多い。新潟店では女子高生の利用も見られ、客単価は1900円。「韓激」は養老乃瀧の業態の中でも立ち上がりは早いという。韓流の要素を取り入れたことで、大衆居酒屋の空間の中に新しい客層を呼び寄せる力が加わったからであろう。
(フードフォーラム代表 千葉哲幸)