クローズアップ現在:人気を呼ぶカウンター席、落ち着かないカウンター席~その違いを考える~

2024.09.02 547号 17面
「築地玉寿司」が1月にオープンした寿司酒場「築地すしくろ 銀座インズ店」は、オープンキッチンを囲むようにカウンター席を設置。職人の作業が間近に見えるライブ感を演出している

「築地玉寿司」が1月にオープンした寿司酒場「築地すしくろ 銀座インズ店」は、オープンキッチンを囲むようにカウンター席を設置。職人の作業が間近に見えるライブ感を演出している

7月にオープンした「鮨 銀座おのでら」の新業態「薪焼うなぎ 銀座おのでら本店」は、「980円から食べられる国産ウナギ」をうたっており、カウンター席中心の造り。カウンター席があることで気軽に利用しやすい

7月にオープンした「鮨 銀座おのでら」の新業態「薪焼うなぎ 銀座おのでら本店」は、「980円から食べられる国産ウナギ」をうたっており、カウンター席中心の造り。カウンター席があることで気軽に利用しやすい

東京・新宿「うどん萬田次郎」でも「思い描いていたイメージそのもの」と、コの字カウンターをそのままに居抜きで入店して開業したという。一段下タイプのカウンター席で、これなら女性一人客でも気兼ねなく食べられる

東京・新宿「うどん萬田次郎」でも「思い描いていたイメージそのもの」と、コの字カウンターをそのままに居抜きで入店して開業したという。一段下タイプのカウンター席で、これなら女性一人客でも気兼ねなく食べられる

大きなコの字カウンターは古き良き名酒場を彷彿させ、最近人気が再浮上している。写真は昨年12月にオープンした東京・三軒茶屋の大衆酒場「赤星」。「吉野家のイメージで、調理場から直接料理を提供したかった」(同店社長)という

大きなコの字カウンターは古き良き名酒場を彷彿させ、最近人気が再浮上している。写真は昨年12月にオープンした東京・三軒茶屋の大衆酒場「赤星」。「吉野家のイメージで、調理場から直接料理を提供したかった」(同店社長)という

 飲食店にとって客席のレイアウトは、店舗の雰囲気を作り、売上げを大きく左右する要素の一つだ。コロナが流行して、黙食に適し小規模店でもオペレーションしやすいカウンター席中心の店も目立つようになった。カウンター席中心の業態というと、牛丼チェーン、ラーメンなどが思い浮かぶが、そうしたカジュアル店だけでなく、高級寿司店などもあり、カウンター席中心の店は業態も幅広い。しかし牛丼チェーンのカウンター席は避けたいと思う若い女性は少なくない。それはなぜなのだろうか。今回は「カウンター席」に焦点を当て、客の視点に立って考えてみたい。

 ●「カウンター席は落ち着かない」は本当か

 一般的に若い女性から牛丼店は「落ち着かないので入りにくい」「早く退店しないといけない雰囲気」と言われてしまう。最近は、男女を問わずZ世代からも同じ声を聞くことが多い。落ち着かないという印象の要因の一つに、カウンター席中心だから、ということがあるだろう。店のスタッフに食べるところを見られるのは、若者を卒業した筆者でも落ち着かない気持ちになる。

 しかし若い女性もZ世代も全席がカウンターのラーメン店には入るし、カウンター席でも気にせず食べ、別段ラーメン店に落ち着きたいと思って入るわけでもない。牛丼チェーンもラーメン店もサクッと食べて退店するタイプの店であることは同じなのに、なぜ牛丼店ではカウンター席を避けたいと思ってしまうのだろうか。

 また、カウンター席中心の高級寿司店でもサクッと食べるスタイルは同じではあるが、客側は別段「落ち着かない、居心地がよくない」とは思っていないだろう。むしろリラックスした雰囲気が流れていると考えているのではないだろうか。

 ●ワクワクするカウンター越しのエンタメ

 理由の一つは、カウンター越しにエンターテインメントが感じられるかどうかだろう。

 ラーメン店の調理場でラーメンの湯切りの様子や背油をチャチャッとのせる様子が見えたり、寿司店では握りや美しくタレをネタに漬ける様子など店側のパフォーマンスを見て、客は楽しみや期待を膨らませる。一人で来店しても楽しめる時間がある。

 これらのパフォーマンスは、ある意味、店と客のコミュニケーションにもなっており、無言の会話が成立しているのだと感じる。出来たてを出すおにぎり専門店も同じと考える。

 コロナ禍の時であっても連日満席を続けていた「挽肉と米」というハンバーグの定食を出す店があるが、厨房をカウンター席で囲むような設計で、客の目の前で、肉を切り、丸め、炭火で焼き、コメを釜で炊いている。スタッフの手際のよさと共に、焼きの香りやご飯の香り、ほのかな煙や音などが絡まり、カウンター席から見る、まるで飲食の劇場のようなのである。

 ●牛丼店のパフォーマンス

 思い起こせば以前は牛丼店も目の前で牛肉をおたまですくいつゆをかける様子を見せている店舗が多かった。ご飯にのせるまでの慣れた手際のよい早業で、注文から1分かからず提供できるなどのパフォーマンスをメディアでも流していた。

 牛丼店もパフォーマンスがある新メニューの導入や、仕込み作業にパフォーマンスを入れる、ご飯にパフォーマンスを投入するなど、工夫次第でカウンター席にもZ世代が敬遠しない方向は可能なのではないだろうか。

 また、こうしたパフォーマンス力だけではなく、カウンターのテーブルの高さも客が「落ち着く、落ち着かない」と思う理由として重要ではないだろうか。ラーメン店も寿司店も、おにぎり店もほとんどの店のカウンターは、一段下がっている。店側ができた料理をカウンターに置く場所から一段下がったところに実際のテーブル(カウンター)がある。そのため例えば客がラーメンを前かがみにしてすすっていたとしても、顔自体は段差によって見えにくい。

 一方、昨今の牛丼店は、その「一段下」がないのである。まさに牛丼をかきこむ様子が丸見えなのである。牛丼チェーンも店舗によってはテーブル席を増やしているので、若い女性はおおむねテーブル席で食べている。

 パフェやかき氷、スイーツ専門店で、Z世代や女性はカウンター席に嫌がらずに座る。このような店では、人との会話がなくても目の前のスイーツと会話しながら食べているのだ。料理と向き合うことで楽しく、居心地が悪くもないのだ。

 牛丼は素早く食べて客数を増やすのを基本としている。しかし客が向き合いたくなるメニューを作ることも、新たな展開のきっかけになるかもしれない

 (食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 大学兼任講師 小倉朋子)

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