外食の潮流を読む(117)老舗の看板メニューを取り入れて持続可能な存在感で求心力高める
東京レストランツファクトリー(本社/東京都目黒区、代表/渡邉仁)では「未来に残したい日本 継なぐプロジェクト」と銘打って、業態を発掘すると共にFC展開を行っている。
この事業の発端は、同社代表の渡邉氏が東京・渋谷にあるスープパスタ専門店「ホームズパスタ」を「未来に残したい」と考えたこと。同店は1986年に創業。「絶望のスパゲッテイ」と称するニンニクが利いたトマトソースのスープパスタが看板メニューで、オーナーをはじめとした少人数で運営。渡邉氏は同店に青春時代から食事に訪れ、こよなく愛する店であった。
同店では、オーナーが高齢に達していたことから、渡邉氏は表題どおりの志を持って、知人を介してオーナーに相談する機会を得て「ホームズパスタのビジネス化」の提案をした。
同社は運営する東京・品川のピザの店を「ホームズパスタ」の看板メニューを取り入れながら、サイドメニューを豊富にした「ホームズパスタ トラットリア」としてリニューアルオープンした。これが2022年5月のこと。
筆者はこの業態設計について「これまで培ってきた『ホームズパスタ』の持ち味を生かして、レストラン企業のノウハウをもってランチもディナーも強い業態をつくる」という狙いを感じ取っている。実際にランチタイムには伝統のスープパスタがお客を引き付け、ディナータイムには、アンティパストによってカジュアルレストランとして利用されている。さらに、カフェタイムにはこだわりのコーヒーやドルチェセットを提供。こうしてフルタイムで店を回転させている。
そして「未来に残したい日本 継なぐプロジェクト」を掲げたストーリーは人々を引き付ける。老舗の伝統を受け継いでいることに、飲食業のプライドを感じさせる。
この業態をFC展開することとし、23年11月に事業説明会を行ったところ、多くの企業から問い合わせがあり、11社と契約。すでに3店舗がオープンして、今年から順次オープンしていくという。契約した会社は地方の外食企業、メガフランチャイジーなどだ。
契約した企業が「ホームズパスタ」に期待していることは「業態転換」とのこと。
既存の駅ナカや商業施設に出店している、主にファストフード系からの業態転換を図ろうとしているという。既存の業態では客単価800円程度、「ホームズパスタ」の場合は2000円あたりとなる。既存の業態ではディナータイムが弱いが、「ホームズパスタ」では前述のとおりカジュアルレストランとなる。
同社には今、さまざまな会社でいろいろな経験を積んできた良い人材が集まってきていて、これまでの経験から「未来に残したい日本」というものがイメージできているという。
これからの飲食業にとって「おいしい料理」に加えて「サステナブルな存在感」が従業員にもお客にとっても求心力になっていく、と筆者は感じ取った。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。