この1品が客を呼ぶ:「とんかつ茶漬け すずや」とんかつ茶漬け

2001.12.03 241号 21面

フライの定番メニューであるとんかつを茶漬けにするというユニークなメニューが、注目を集めている。人気が人気を呼び、今では新宿歌舞伎町本店をはじめ、都内に5店舗を構えるまでに成長。他に類を見ない斬新な発想と、幅広い層から支持されるその理由を、じっくり探ってみた。

飲食店における茶漬けといえば、飲んだあとの仕上げに軽く一膳、といったところが相場である。ところがここ「とんかつ茶漬け すずや」においては、茶漬けが文字どおり看板メニューとして君臨している。

醤油味のたれが香ばしいとんかつの上に、ほどよい甘みの炒めキャベツと刻み海苔がたっぷりのったものを、まずはそのままいただく。そしてとんかつが三切れほどになったところで、ご飯の上にキャベツと一緒にのせ、茶をたっぷり注いでかきこむ。これが「とんかつ茶漬け」(一四〇〇円)を食す際の一般的なスタイルだ。

それにしても、洋食の代名詞ともいえるとんかつを茶漬けにするとは何とも斬新な発想だが、メニュー誕生は意外にも古い。

昭和29年、惣菜店兼洋食店として創業した「民芸茶屋 すずや」では、売れ残った商品を従業員のまかない食にあてていた。もちろん当時はまだ電子レンジなどなく、冷や飯と冷えたおかずは何とも味気なかった。そこで創業者の鈴木華子さんは一計を案じ、冷や飯の上にキャベツととんかつをのせて茶漬けにした。

するとこれが、思いのほかおいしかった。従業員の反応もすこぶるいい。やがてそれが常連客の耳に入り、自分も食べたいという声が相次ぐころには、鈴木さんは店のメニューに取り入れることを決意した。

そしてすずやが「民芸レストラン すずや」と店名を替え、洋食専門店に業態をシフトするのに伴って、とんかつ茶漬けはレギュラーメニューに加わった。

そんなすずやの屋号に「とんかつ茶漬け」の名が冠されたのは、昭和62年、現社長の杉山元茂さんが三代目社長に就任した直後だった。

「いい素材を使って、たっぷり手間をかければ、おいしいものができるのは当たり前です。でも、いくらおいしくても、カレーライス一杯に二〇〇〇円を出そうという人はあまりいないでしょう。だからどうしてもコストを抑えなければならず、ジレンマを感じていたんです」

そこで杉山さんは、他店にはないとんかつ茶漬けを看板に、独自のカラーを打ち出すことにした。

「そのかわり、素材には徹底的にこだわりました。食材そのものの良しあしではなく、とんかつ茶漬けとして完成したときにうまいかどうか。すべてそれを基準に選んだんです」

とんかつに使用する肉は、風味があって軟らかい群馬産のクイーンポークのひれ肉。パン粉はタンパク質と糖質度の高い自家製の粗びき粉。油は余分な脂質がなく、淡白な純正サラダ油を使用する。キャベツは契約農家に品種と栽培法を細かく指定したものを、茶は静岡の契約農家から仕入れたオリジナルのブレンド茶を使用する。

このほか、コメや味噌汁、茶漬けのトッピングの浅漬け、さらにとんかつをのせる鉄板や急須など、すべてとんかつ茶漬けに使用するために厳選された逸品だ。

すずやではとんかつ茶漬けのほか「ひれかつ定食」や「味噌かつ定食」「和風ひれかつ定食」なども扱っているが、客の七割はとんかつ茶漬けを注文するという。

「ときどき無性に食べたくなるんです」

居合わせた客のひと言が、とんかつ茶漬けの魅力を見事に言い表している。

◆「とんかつ茶漬け すずや」=東京都新宿区歌舞伎町一‐二三‐一五、杉山ビル3階、電話03・3209・4480/坪数席数=四五坪七五席/営業時間=午前10時30分~午後10時45分、無休

○こだわりの食材 魚沼六日町産コシヒカリ

すずやで使用するコメは、いわずと知れた新潟県魚沼産コシヒカリだが、その中でも土壌がよく気候条件に優れた六日町産のコメだけを使う。とんかつ茶漬けを看板メニューにするにあたって、杉山さんが三〇種以上の品種の中から厳選したものだ。これをミネラルイオン水を使ってやや硬めに炊き上げるのがすずや流。

「もちろんとんかつ茶漬けにしたとき、最高においしくなるように炊いているんです」

と杉山さん。硬めとはいえ、もちもち感のあるそのコメは、なるほど茶漬けにぴたりとはまる。

○記者席からのコメント

あつあつの鉄板にのったとんかつを、特製の醤油だれにからめた炒めキャベツと一緒に食べると、確かにおいしい。が、全体的にややあっさりとした味つけで、とんかつならではのヘビーさはいまひとつ。

お茶はそのまま飲むと、かなり渋い。ところがこれらがご飯の上で一緒になると、見事なまでの調和を見せる。とんかつにしみ込んだたれがお茶に香りよくなじみ、またお茶の渋みとキャベツの甘みがほどよくマッチする。とんかつの味も文句なし。そのアイデアと素材へのこだわりに一本取られたという感じだ。

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