辛口・外食にモノ申す:「北の家族」倒産の真実(3)
今年1月17日、店頭公開企業「北の家族」は倒産した。つまずきの原因は、当連載既報の通り、不透明な錬金術集団にもて遊ばれたことが第一のようだ。しかし、倒産原因の二番目は、北の家族の「原点」を忘れたことにある。原点(得意領域)とは、事業の中心部であり得意な領域のことである。長谷川グループがTOB(株式公開買付け)で合法的に北の家族を買収したとしても、北の家族の原点を忘れなければ、それ程早急な業績悪化は有り得なかったはずだ。
北の家族の原点とは、お金の無い学生たちでも、十分に飲んで楽しめる都心の居酒屋だったということである。これが得意領域であって、どのチェーン居酒屋も追随できなかった。
確かにサービスは悪かった。その以前に従業員が少なかった。しかし若者たちは「これだけ安いから従業員が少なくてもいいか」と割り切った。メニューには、揚げ物を中心とした冷凍食品が多かった。でも、若者たちはそれも割り切った。
しかし、長谷川グループが買収してから様子が変わった。グルメな「びすとろ=おいしい食堂」を志向した。ちょっと高級な「ビストロ北の家族」を出店した。これは「うまいものを、腹いっぱい、安い料金で食べたい!」という創業の原点とは相反する生き方である。
追い討ちをかけたのは、大学一年生や短大生・専門学校生に、年齢チェックのために身分証の提示を求めたことである。大学生一年生は成人(二〇歳)ではない。北の家族は店頭公開企業、青少年に酒を飲ませないという社会的使命がある。この身分証の提示は、青少年健全育成のために警察の指導でせざるをえなかったが、しかし大学生の半分(一~二年生)と専門学校生(一八~一九歳)の全部を、顧客から失うことになった。郊外や地方都市への無理な進出も、北の家族の得意なところではない。
長谷川グループの錬金術が倒産の引き金となったが、それ以上に原点を失ったことが破たんの要因だったのだ。
((有)日本フードサービスブレイン代表取締役・高桑隆)