シェフと60分:「リストランテ・フクムラ」シェフ・店長・村上彰一氏

2002.07.01 255号 19面

実家は割烹。なのに現在はイタリアンのシェフ。思わず「なぜその選択を?」と素朴な疑問をぶつけたところ、即座に「世界を見たかったから」という答えが返ってきた。

「もともと料理に興味があったのですが、父は経営者で包丁は握っていなかったせいか、割烹を継ぐ気はありませんでした。それよりも、高校生のころからイタリア料理に触れるうちに、『少しでも世界を見たい! 海外を見たい!』と思うようになって」

二〇歳の時、単身イタリアへ。ローマの有名店「チェレスティーナ」とウンブリアの「イル・モリーノ」へ修業を申し出て、いずれでも厨房に入ることを許された。イタリアでの一年間は学ぶことだらけで、いろんな意味で飛躍の時期だったと村上氏は言う。

技術的にも多くのことを学んだが、大きかったのが精神面の充実。言葉が通じない環境に身を置いたことで、「人間は行動を起こして前に進まなければ何ごとも始まらない。言葉が通じなくても、ジェスチャーでなんとかなるものなんですよ。前向きな人生の姿勢を学びましたね。あとは気質。イタリア人の人なつっこくて、楽しみも悲しみも分かち合おうとする気質は、二〇歳の私にとっては影響が大きかった。感化されましたねえ」と笑顔を見せる。

料理人人生の中で影響を受けた人物は? と尋ねると、義兄の福村賢一氏と、チェレスティーナのオーナーシェフ、マルチェッロ氏を挙げた。

福村賢一氏については、「修業に行く前も行った後も、多くのことを教わりました。修業に行く前に店で料理を勉強していたおかげで、イタリアで違和感なく修業に溶け込めたように思います。スムーズに学べて、うれしかったですよ。自信につながったし、ステップアップしてもっといろいろ覚えたい! いろんなものを見たい! 食べたい! という気持ち、人においしさを伝えたいという気持ちが強まりました」と。

マルチェッロ氏からはレストラン経営の厳しさを教えられた。

「料理を作るだけじゃなく、お客さんの入りを見て常に店全体を見渡しているところに影響を受けました。数字や仕入れなども含めてね。結局今私がやっていることなんですよ」

料理人歴二〇年以上。現在はシェフ兼店長として後輩の指導にあたるが、継承していきたいこだわりは?

「食べる人の喜びを感じて料理を作ることですね。そのためにも、まずは自分が楽しむことが大事。自分が楽しんで仕事をすることが料理につながり、お客さんの喜びにつながり、利益につながれば一番いい、と思っています。モットーは『楽しい料理』」(笑い)

お客さんの喜びは接客においても提供したいという。

「『料理がおいしかった』というだけでなく、滞在する時間も楽しんでもらいたい。イタリア人がレストランにいる時間をとても楽しんでいたのを見てきた影響が大きいですね」

もう一つ忘れてならないのが、「何でも手作りで」の精神。スモークサーモンや生サラミ、パスタマシーンで生パスタを作ったりと、オリジナリティーは尽きない。「創業以来続く、この店のスタイルです。大事にしていきたい」と話す。

リストランテ・フクムラは開店して三〇年。京都では文句なしに老舗のイタリア料理店だが、この歴史ある店が、今年4月から新たな試みを始めた。

京都市内からほど近い山奥に新店「Monte Falco(モンテファルコ)フクムラ」をオープンしたのだ。コース料理で完全予約制というこの店のこだわりの一つが「野菜」。さすがに全部はまかないきれないがなるべくすぐ近くの自家菜園で育てたものを使うという。

「ルッコラやスナックエンドウ、ハーブ類など育てています。自分たちで作った、安心できる野菜を食べてもらいたい」前述のオリジナリティー追求の延長上にこの店はある。

「イタリアの田舎には、裏口を開けたらハーブ園が広がる、そんなレストランがたくさんあります。自家菜園があって、眺めのいい場所に建つこの店はまさに私の理想に近い形のレストラン。お客さんに『何か摘んできてー』って言って菜園に入ってもらって、摘んでもらった野菜でサラダを作る。そんなことも、考えていますよ」

終始にこやかな村上氏の顔が、この時、ひときわ輝いた。

文・カメラ 開亜希子

・所在地/京都市中京区富小路四条上ル

・電話/075・255・2060

◆プロフィル

村上彰一 「リストランテ・フクムラ」シェフ・店長 1960年京都市生まれ。実家は料亭を経営。鰹節のだしのにおいをかぎながら育つ。高校生時代から姉の夫、福村賢一氏が経営する「リストランテ・フクムラ」で皿洗いや調理補助を経験し、20歳の時に修業のためイタリアへたつ。ローマの「チェレスティーナ」、ウンブリアの「イル・モリーノ」で本場の料理技術を体得。帰国後は再びリストランテ・フクムラへ。福村氏や数々の先輩のもとで腕を磨き、97年から店長を務める。「でも、まだ今でも修業中ですよ。修業とは何歳で終わりというのではなく、ずっとずっと、勉強していくもの」と向上心は尽きない。オフは読書や映画鑑賞で鋭気を養うほか、「とにかく食べたり飲んだりするのが大好き」(笑い)。笑顔が絶えない、イタリア人をほうふつさせる陽気な雰囲気を漂わせる人だ。

◆私の愛用食材 超高級エキストラヴァージンオリーブオイル「ウンブロ」

村上氏の二軒目の修業先、ウンブリアの田舎町スペロのオリーブ畑で生産されたエキストラヴァージンオイル。香りが強く、しっかりした味が特徴だ。

オイルの選定については長年試行錯誤が続いた。村上氏は二年にわたってオリーブ収穫時期にイタリアを訪れ、あらゆる地方のオリーブ畑の搾油所を訪ね回ったという。結果、この商品に決定。

「修業先で使っていていいなと思っていたし、無理に収穫せずに、一番いい状態のものを手で収穫するなど、丁寧に作っているのを目の当たりにしていたので安心できると思って選びました」

店では、ドレッシングに、料理の仕上げにと、大活躍。村上氏お気に入りの逸品だ。

価格は、五〇〇ミリリットル三三〇〇円(税別)。ケース売りもある。二五〇ミリリットル、七五〇ミリリットルもあり。

◆問い合わせ先=(株)イタショク(電話075・491・0900)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら